暁 〜小説投稿サイト〜
広報官トーゴー ───最後の卒業生───
広報官トーゴー ───最後の卒業生───
[11/18]

[1] [9] 最後 最初
通りの質問にこれも予定通りにヤンが答え、終了時刻に下がりかけた瞬間
「リンチ少将に一言」
 協定を破って一人の記者が呼びかけてきた。
「もう時間です」
 素早くトーゴーが間に入ろうとしたが、それよりも差し出されたマイクが早い。
「……え、ええと……お元気で……」
 それまでもカンペを読み上げているかの応答だったのだ。質問状にリンチの名前が出ているものは却下してある。
「以上です!」
 咄嗟のことでヤンはしどろもどろになり、それでも軍にマズい返答ではなかったが、的を得ているとも言い難く、トーゴーはマイクを引ったくると大声で叫んだ。
 一方記者たちは模範解答を読み上げるヤンには飽きていたので、微妙ではあるものの、おそらくはヤン・ウェンリーの本意らしき声が聞けたことには喜んだ。捕虜になっている上官に対して、極めて好意的に受け取れば確かに呼びかけとして間違ってはいない。
「ハイネセン日報は出入り禁止だ」
 目敏くIDカードを確認したトーゴーが言えば、舌打ちした後に隣にいる記者の方を向く。
「少将は捕虜条約があるから元気だろうが、家族はどうだろうね」
 形は記者への問いかけだったが、ヤンに聞かせたかったのは丸わかりだった。トーゴーが睨んだことは目の端で捉えてはいても、あくまでも記者同士の会話である体裁を保つ。
 ヤンの背中を押して壇上から下がると、そのまま廊下を早足で進み、車へ連れ込んだ。
「先輩」
「疲れただろうから次のテレビはキャンセルしよう。夕食までホテルで休むといい」
 その場でトーゴーはテレビ局とホテルに電話を入れる。幾度か呼びかけても、それが済むまでトーゴーはヤンを見ようともしなかった。
「……まあ、そのうちわかることだ」
 そう言って車内に備えつけられているテレビのスイッチを入れた。
 先ほどの会見は生中継だったが、今は繰り返しの映像をスタジオで検証している。
 ヤンがどうにか答えた後、中継が切り替わった。
 現在のリンチの官舎は無人、連日マスコミが押し寄せて家族にインタビューしようとする様子が流された。近所迷惑だから帰って欲しいとのインターホン越しの応対では満足せず、一日中チャイムを鳴らし続け、道路はマスコミの車で溢れた。近隣住民への被害も出ている為、警察が車両と大人数での取り囲みは止めさせたものの、入れ替わり立ち替わりになっただけで、家族は家の中に閉じこもったままだった。
 建物の壁には「卑怯者」「給料泥棒」「軍人としての恥を知れ」など落書きと張り紙が隙間もないほどで、庭の草木は踏み荒らされ、ゴミの山になっている。
「仕方ない」
「家族は何もしてないんですよ」
「そんなことは百も承知だ、連中だって」
 リンチの住んでいた官舎の様子を一通り写すと、カメラはスタジオに切り替わり、もっともらしい肩書きの
[1] [9] 最後 最初


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ