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広報官トーゴー ───最後の卒業生───
広報官トーゴー ───最後の卒業生───
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 アスターテの会戦が終結した。
 
「どうする?」
「どうするも何も……数は間違いないんだな」
「ああ、公式発表もごまかしなしでいくそうだ」
「そりゃごまかしようもないだろう?」
「千や二千ならどうにかなるが」
「一万が二万でも可能だがバレた時が面倒だ」
「面倒も何もバレないわけがないだろう」
 ここが統合作戦本部ビル内でなければ、営業会議か経営戦略だと思われるような会話が会戦終結前から、至極真面目に繰り広げられていた。
 ハイネセンの後方作戦本部へ、常時ひっきりなしに前線からの情報が送られているわけではない。敵の通信傍受の可能性もあるし、味方の士気に影響を及ぼすことも多々あれば、立案者の立場をおもんばかることもあった。負け戦の報告など聞きたくない、と豪語する者さえいる。
 敵を欺く為に嘘の通信を流すこともあるし、そうやって味方を励ますこともあった。
 しかしその中で真実のみを提供される部署がある。一刻も早く事実を知り、それに対応すべく場合によっては決着がつく前から動くこともあった。
 広報室である。
 建前は軍部と市民の間を取り持ち、軍の情報を等しく正しく知らしめる為の部署であるが、実際には嘘とまではいかなくとも誇張したり、わざと公開しないなどの情報操作の方が重要になった。



 電話が鳴った時、ヤンはまだ深い眠りの中にいた。官舎に帰りつくやいなやベッドへ倒れ込み、十六時間連続で寝てもまだ足りないくらいだったのだ。
 ユリアンは居留守を使うべきか悩んだ。
 ヤン・ウェンリーのところには彼の名を利用したい連中からの連絡が後を立たない。
 講演依頼もあれば、テレビ出演、執筆依頼もある。歴史書なら喜ばしいところだが、「ヤン・ウェンリーのよくわかる兵法」はぎりぎり理解できるとしても、「経営戦略にみるヤン・ウェンリー」とか、「ヤン・ウェンリーを目指すには」「ヤンの食卓」となるといったい何を求めているのだ? と首を捻りたくなるようなものばかりだ。
 ようは「ヤン・ウェンリー」の冠がついたものが欲しいだけで、ヤン自身の値打ちが認められたわけではない。
 ユリアンが来て住居が片づいたことと、美味しい紅茶が飲めることの他に、ヤンが助かったと思っていることが不要な電話に応対しなくてよくなかったことだった。
「提督は出かけています」
「何時に戻るのかはわかりません」
「どこに出かけたかは……軍規の関係で僕には知らされていません」
「はい、お電話があったことは提督に伝えます」
「申し訳ありません」
 などユリアンが答えるのを、ヤンは笑いをかみ殺して見ていればよかった。
 ユリアンは律儀にどこの誰からの電話だったのかを伝えるが、ヤンは右の耳から左の耳へといった感じで二度三度の電話にも
「提督には伝えてあります」
 決
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