暁 〜小説投稿サイト〜
あの人の幸せは、苦い
2. 胸が、少し痛い
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ないよう気をつけながら、手を伸ばし、クラッカーを一つ取った。

「よっ……」
「……」

 隼鷹が、ずっと私のことを見ていたのがちょっと気になった。気のせいだとは思うけど……

 手の中の小さなクラッカーをじっと見つめる。北上が『二人が入ってきたら鳴らしてあげてね』といい、店の奥に『いいよー』と声をかけた。

――出てこないで

 この喫茶店『ミア&リリー』は、床が木製で、歩くたびにコツコツといい音がなる。そんな厳かな足音が店の奥から二人分、聞こえてきた。一つは少し音が軽い。球磨はハイヒールでも履いてるのかな……と気を紛らわしていたら。

「タッハッハッ……」

 こんなホームパーティーに似つかわしくない、黒のタキシードに身を包んだハルが出てきた。

「ハハ……やっぱりちょっと照れくさいな……」

 顔をちょっと紅潮させ、照れくさそうに苦笑いを浮かべるハル。暁が『ハルかっこいい! やっぱりハルも一人前のれでぃー!!』と歓声を上げ、みんなの笑いを誘った。

 さっきの胸の不快感が一瞬で消え去り、私の目は、ハルに釘付けになった。

 ハルは、同年代の男性に比べて、背が高く、体型も少し細い。そんなハルが着ているのは、タイトな黒のタキシード。少し着崩しているが、それが逆にハルらしくてよく似合っている。

「いいじゃん! ハル似合ってるよ!」
「ありがとなー隼鷹! お前に服装褒められるとすんげーうれしい!」

 そんな隼鷹とハルのやりとりすら耳に届かない。ただ、私にわかるのは、ハルが本当に嬉しそうに笑っていることだけだ。笑顔のハルは、本当に、キラキラと輝いて見えた。

――だめ

 私の胸は意に反して、少しずつ、心地よくドキドキし始めていた。

「はーい。つづいて今日の主役の登場だよー」
「俺も主役じゃないんかいっ」
「さっき自分で『主役は球磨姉』って言ってたじゃん」
「確かに……」

 ハッとする。北上が再び店の奥に消え、『早く出てきなよー』と声をかけていた。その後、コツコツと軽い足音とともに店の奥から姿を見せたのは、私の友達のはずなのに、まるで別人みたいに見慣れない、球磨型軽巡洋艦の一番艦。

「うう……」
「うわぁあああ〜!! 球磨きれい〜!!」
「ほんとよく似合ってるわ! 馬子にも衣装ってこのことかしら?」
「そら褒め言葉じゃないよビス子……」

 ベールこそつけてないが、純白のドレスに身を包んだ球磨が、アホ毛と口を恥ずかしそうにムニムニと動かし、真っ赤な顔で私たちの前に姿を表した。両手でスカートを掴んで持ち上げているから、ロングスカートが歩き辛いのかも。でも、そんな仕草が不思議とよく似合う。

「いや、ホントあの頃とは全然違うな!」
「う……て、提督は今度張り倒
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