2. 胸が、少し痛い
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提督は提督で、鎮守府にいたときの白い上下のスーツを着ていた。気のせいか、あの頃よりもさらに輪をかけて顔つきが優しい。戦いを離れて隼鷹と暮らし始めて、戦闘のことを気にかける必要がなくなったからだろうか。
「きゃー! しれいかーん!!」
「もうちょっと上に手を伸ばしてみろ! 天井に手が届くんじゃないか?」
「ほんとだー!」
「さすが一人前のれでぃーだなー!」
「やったー!!」
そんな風に肩車ではしゃく二人を見ながら、私は本当に戦争は終わったんだなぁと実感した。フと気になって、隼鷹の様子を伺ってみた。
「……」
まるで本当の親子のようにはしゃぐ提督と暁を、隼鷹は優しい微笑みを浮かべながら眺めていた。提督もそうだが、隼鷹もあの頃に比べ、少し表情が柔らかくなった気がする。キャッキャキャッキャと騒ぐ二人を見て、自分と提督の将来を想像しているのかもしれない。
――私は、ああはなれない……
フと、胸にチクッとした痛みが走る。気のせいだ、そんな痛みなどないと自分に言い聞かせ、私は提督と暁を視界から外した。
「……」
「……」
「……あ」
「ん?」
隼鷹と目があった。隼鷹はいつの間にか、私の方を見ていたみたい。目があった途端、隼鷹は照れくさそうに『タハハ……』と苦笑いを浮かべた。二人の親子を微笑ましく眺めていた自分が照れくさくなったのか?
そんな隼鷹は、今日は明るいピンク寄りの紫色に輝く、キラキラと眩しいカクテルドレスを着ていた。以前に提督から、『隼鷹から星がこぼれる音が聞こえた』から、結婚を決意したと聞いたことがある。あんなにキラキラと輝いていたら、たしかにそんな音が聞こえてもおかしくはない。
『そろそろいいよー』
『あいよー』
『うう……恥ずかしいクマ……』
そんな声が店の奥から聞こえ、私の胸がドキンとした。
『だーいじょうぶだってー。球磨姉ホントに似合っててキレイだからー』
『は、張り倒すクマ……』
『だってさハル兄さん。ご愁傷様』
『なぜ俺に振る?』
嫌な緊張が胸に走る。心臓が、バクバクと嫌な鼓動をし始めた。何処かで『いやだ』『見せないで』と悲鳴を上げる私の心の声に、私は気付かないふりをした。
『うう……やっぱり行くクマ?』
『主役はお前だろうが……』
『ハルだけ行くのはダメクマ?』
そんな、微笑ましい……でも聞きたくない……会話が聞こえ、店の奥からコツコツと足音が響き始める。最初に姿を現したのは、北上。
「それじゃみなさん。テーブルのカゴの中にあるクラッカーを一人ひとつずつ、準備してね〜」
言われるままに、私たちはテーブルの上を見た。白木で編まれたカゴの中に、クラッカーがいくつか入っている。私は心境の変化を周囲にさとられ
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