暁 〜小説投稿サイト〜
あの人の幸せは、苦い
2. 胸が、少し痛い
[4/7]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
 提督は提督で、鎮守府にいたときの白い上下のスーツを着ていた。気のせいか、あの頃よりもさらに輪をかけて顔つきが優しい。戦いを離れて隼鷹と暮らし始めて、戦闘のことを気にかける必要がなくなったからだろうか。

「きゃー! しれいかーん!!」
「もうちょっと上に手を伸ばしてみろ! 天井に手が届くんじゃないか?」
「ほんとだー!」
「さすが一人前のれでぃーだなー!」
「やったー!!」

 そんな風に肩車ではしゃく二人を見ながら、私は本当に戦争は終わったんだなぁと実感した。フと気になって、隼鷹の様子を伺ってみた。

「……」

 まるで本当の親子のようにはしゃぐ提督と暁を、隼鷹は優しい微笑みを浮かべながら眺めていた。提督もそうだが、隼鷹もあの頃に比べ、少し表情が柔らかくなった気がする。キャッキャキャッキャと騒ぐ二人を見て、自分と提督の将来を想像しているのかもしれない。

――私は、ああはなれない……

 フと、胸にチクッとした痛みが走る。気のせいだ、そんな痛みなどないと自分に言い聞かせ、私は提督と暁を視界から外した。

「……」
「……」
「……あ」
「ん?」

 隼鷹と目があった。隼鷹はいつの間にか、私の方を見ていたみたい。目があった途端、隼鷹は照れくさそうに『タハハ……』と苦笑いを浮かべた。二人の親子を微笑ましく眺めていた自分が照れくさくなったのか?

 そんな隼鷹は、今日は明るいピンク寄りの紫色に輝く、キラキラと眩しいカクテルドレスを着ていた。以前に提督から、『隼鷹から星がこぼれる音が聞こえた』から、結婚を決意したと聞いたことがある。あんなにキラキラと輝いていたら、たしかにそんな音が聞こえてもおかしくはない。

『そろそろいいよー』
『あいよー』
『うう……恥ずかしいクマ……』

 そんな声が店の奥から聞こえ、私の胸がドキンとした。

『だーいじょうぶだってー。球磨姉ホントに似合っててキレイだからー』
『は、張り倒すクマ……』
『だってさハル兄さん。ご愁傷様』
『なぜ俺に振る?』

 嫌な緊張が胸に走る。心臓が、バクバクと嫌な鼓動をし始めた。何処かで『いやだ』『見せないで』と悲鳴を上げる私の心の声に、私は気付かないふりをした。

『うう……やっぱり行くクマ?』
『主役はお前だろうが……』
『ハルだけ行くのはダメクマ?』

 そんな、微笑ましい……でも聞きたくない……会話が聞こえ、店の奥からコツコツと足音が響き始める。最初に姿を現したのは、北上。

「それじゃみなさん。テーブルのカゴの中にあるクラッカーを一人ひとつずつ、準備してね〜」

 言われるままに、私たちはテーブルの上を見た。白木で編まれたカゴの中に、クラッカーがいくつか入っている。私は心境の変化を周囲にさとられ
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ