第一章 俺のアニソン
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も、それは定夫が勝手に脳内空想しているドラマに過ぎないのではあるが。
航空女子挺身隊は、守護霊が主人公にアドバイスを送る、という仕組みで進めていくゲームなのだが、主人公は霊魂の存在を認識していないため、絆値が成長しない限りはとことん勝手な行動を取るのだ。
定夫にとっての唯一の慰めは、小隊でのライバルであり親友でもある近藤奈々香が無事であったことか。
彼女、近藤奈々香は、仏蘭西空軍に囲まれた吉崎かなえを救出しようと、自分の生命もかえりみず単身で乗り込んできたのだ。
かなえが見るもあっさり撃墜されて藻屑と消えたため、近藤奈々香も撤退せざるをえなかったわけだが、かなえが粘ってしまっていたら、果たしてどうなっていたことか分からない。
席につく定夫の前には、28インチの液晶モニターが置かれている。
そこに映っているのは、切り立った崖、そして一つの墓標。
海に沈みかけている夕日が、周囲を幻想的なオレンジ色に染め上げている。
「墓参り」の映像である。
玉砕した航女の英霊を慰めるシステムが、このゲームにはあるのだ。
プレーヤーは守護霊という設定なのに、ならば誰が墓参りをしているのか、と方々から突っ込まれている部分である。
モニター両脇にあるスピーカーからは、波の音だけが静かに聞こえていたが、不意に、音楽が流れ始めた。
力強くも、もの悲しい曲だ。
山田定夫は、脂肪たっぷりのお腹をもにょんと揺らしながら椅子から立ち上がると、後ろ手に組んだ。
堤の峰を乗り越えて
我が身よ我が靴 幾星霜
讃えよ 英霊 胸宿る
父 母 姉よ 妹よ
戻るものかと 万里まで
勝利の鐘を鳴らすまで
「敬礼!」
狭い自室で叫ぶと、ぴっと伸ばした指先をこめかみに当てた。
突然、あっ、と再び感極まったように情けない呻き声をあげ、定夫は床に手をつき崩れた。
頬を一条の涙が伝い落ちた。
吉崎かなえの魂魄、大和の雲の上、永遠なれ
2
母、住江に階下から呼ばれた山田定夫は、トラック何台分のポテトチップスが詰まっているのかというような凄まじく肥満した身体を揺らしながら、ドテドテ階段を下りて玄関へと出た。
客人来訪である。
人数は二人。
定夫に負けず劣らずの肥満体が、梨峠健太郎。
通称はトゲリン。
これまた定夫と同様に、分厚い黒縁眼鏡をかけている。
反対に、指でつまめばポッキリ折れ
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