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SAO−銀ノ月−
涙雨
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女から虹架への糾弾は続いていく。ただし何も知らずに《SAO》のことを語ることなど、虹架の怒りを買うにはもちろん充分だった。あの浮遊城で人生を狂わされた者、夢半ばで果てた親友、幾度となく苦難に遭いながらもクリアに持ち込んだ彼ら。それらを全て知っていた虹架には、その怒りは当然だった。

 ……だった、筈だった。ただ――

「……虹架ちゃん、今日は帰ってゆっくりしてた方がいいわ。こっちは、私が言っておくから」

「う、ん……」

 何か怒りのままに言い返してやろうとする間もなく、リーダー格の少女に背中を押されて、虹架は事務室のあるビルから一人で降りていく。そうしてオフィス街を無意識に歩いていきながら、虹架はどうして何も言い返せなかったのか、自問自答したものの――答えは最初から分かりきっていた。

「最低だ、わたし……」

 彼女から糾弾されたことは、まごうことなき事実だったからだ。他のアイドル候補の少女たちに比べて、歌以外が特に勝っているわけではない虹架が少しとはいえ仕事が上手く回ってきているのは、その《SAO生還者》という特異な経緯があるからだった。正確には《SAO生還者》だから採用した、と先方から言われたようなことはないが、そうであろうと想像することは容易だった。

「あ……」

 多くの人生を狂わせたデスゲームだと友人たちや自らを通して知っているからこそ、そのデスゲームを利用して仕事を貰っている自分が、とても汚いもののように虹架は感じてしまう。そもそもアイドルという仕事を選んだのは、デスゲームで夢を叶えられなかった彼女(ユナ)の夢を――とまで考えたところで、虹架の視界は駅前に設置された大きなモニターへ向けられた。

「……ユナ」

 そんな巨大なスクリーンに映っていたのは、《オーグマー》と《オーディナル・スケール》の宣伝を担当するARアイドル、『ユナ』だった。ある計画のためにデスゲームで死んだ虹架の親友と同じ姿形をした少女は、同一人物ではないとはいえ虹架とは及びもつかない存在となって、浮遊城で語った夢を叶えていた。

 ユナから夢を託されていたなどと、虹架が考えていたのは、余計なお世話だったと言わんばかりに。夢を叶えたユナの姿は、モニター越しにも輝いて見えた。

「わたし……何、してるんだろ」

 そう呟いてからの虹架の記憶は覚束なかった。何も考えずに機械のような足取りで家まで戻り、母が出かける前に用意していったであろう夕食を無感情に見つめて、自身は朝と同様にベットへ倒れ込んでいた。そのまま七色のことや母のこと、仕事のことにユナのこと、全てを失って意識を失ってしまいたかったが、虹架の手は勝手に《アミュスフィア》へと伸びていた。

「リンク・スタート……」

 逃避先が意識を失うかVR世界か、その違い
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