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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 50
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 飲めや歌えのドンチャン騒ぎが自然と終息した早朝。
 まだ薄暗く人気が無い村内を、一人でテクテク歩き回る。
 結局、昨夜は片付けの途中で半ば強引に帰されてしまったので、その後はどうなったのか心配していたのだが、ハウィスの家から果樹園、菜園、崖上の教会、住宅区、中央広場、自警団の詰所、酒場、砂浜、船着き場、魚用の保管庫、グレンデル親子の家、村の出入口へ続く坂道の袂まで、何処をどう見ても塵一つ落ちてなかった。
 さすが、片付けまでが宴です! と語るネアウィック村の女性陣。相変わらずの良い仕事ぶりだ。ぐでぐでに酔っ払っていた男性陣も、最後にはきっちり手伝ったのだろう。女性二人で運べるかどうかの重さだった瓶箱やら何やらが全部綺麗に無くなっている。
 (みんな、今日は昼頃まで寝てるかも知れないな。体調崩さなきゃ良いんだけど)
 家と家の隙間に横たわる穏やかな潮騒と朝を告げる鳥の声と葉擦れの音を聴きながら、村の門を目指して坂道を上る。境の一歩外へ出た瞬間から村民じゃなくなるのかと思うと、この散策にすら儀式めいた何かを感じて微妙に(くすぐ)ったい。
 「満足した?」
 門の近くで待ち構えていたハウィスが、此方を見付けてふんわり微笑んだ。
 その金色の髪は言葉では説明できない複雑美麗な形に結われ。
 その顔は、必要以上に手を入れない上品な薄化粧で彩られ。
 その体は、肘までを覆う真っ白な手袋と、銀を基調とした装飾品の数々と、新任領主に相応しく高級感溢れるレース特盛な群青色のドレスを纏っている。
 靴は円錐状に広がった裾で隠れているので断言できないが、多分ドレスに合わせた群青色のハイヒールだ。普段と比べてほんの少し目線が高い。
 言わずもがな村の空気とは全く合わない貴族の正装だが、仕方ない。要人が一塊になって動くのは良くないとかで出発時刻は多少ずらすが、彼女とリアメルティ騎士団(マーシャルを除く)も今日から当面の間エルーラン王子と共にネアウィック村を離れ、リアメルティ領の中心街で職務継承の手続きをしなくてはならないのだ。
 公的な領主交代の認証式や関連書類への署名等は済ませてあるものの、元領主から引き継ぐ屋敷と使用人達の管理等に関しては、近二代の領主達が現地で直接手を打つしかないとの事。そちらが落ち着き次第、近い将来国境に訪れる急激な変化に対応する為、以後のリアメルティ領の政務拠点は、アルスエルナとバーデル両国の王室公認でネアウィック村へ移される。
 ちなみに、貴族籍を剥奪された元領主一家だが。
 絶対知ってるだろうとエルーラン王子に引っ越し先を尋ねてみたところ、其処に関心を持っただけ成長したなと意地悪な言葉をくっ付けつつ、今は王都の片隅で一般民の生活を謳歌していると教えてくれた。引っ越し当初は「解任されて良かったよぉーっ」と一家揃って涙ながら
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