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調子の秘密
第一章
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                調子の秘密
 眞鍋香澄の職業は大学の事務員である、その勤務ぶりには定評があり若いながらも何かと頼りにされている。
 しかしこの時はだ、彼女がいる事務課の課長が困った顔で言った。
「あの、眞鍋君」
「何でしょうか」
「今日どうしたのかな」
 傍目から見ても疲れきっている香澄に尋ねた。
「何か仕事が凄く遅いよね」
「午前中に言われた書類がですか」
「まだ出来てないよね、もう二時だけれど」
「すいません」
「謝る必要はないよ、けれどね」
「今日中に終わりますので」
 こう答えた香澄だった。
「安心して下さい」
「そうだよね、君ならね」
「仕事はしていますので」
 真面目な香澄はさぼったりすることはしない、仕事はいつも勤務時間の間はコツコツと確実に進めていく。
「ですから」
「そうだね、ただ普段の君なら」
 課長は香澄に難しい顔でこうも言った。
「あれ位の書類ならお昼までには」
「終わってですね」
「出してくれているからね」
「今日は」
「うん、まあこんな日もあるね」
 所謂『出来る』香澄でもだ。
「じゃあ今日はね」
「あの書類をですね」
「出してね」
「わかりました」
 こう返した香澄だった、そしてその書類は五時しっかりに出した。それで香澄のこの日の仕事は終わりだった。
 だが次の日の香澄はいつも通りテキパキとして順調に仕事をしていた、書類だけでなく雑用も無事にこなしている。
 それでだ、課長は密かに彼の同期の大学の人事課の課長にその日の夜一緒に飲みながら香澄のことを話した。
「うちの眞鍋君だけれどね」
「事務課のエースだそうだね」
「うん、仕事は凄く出来るんだよ」
 二人で串カツ屋のカウンターに座って串カツとビールを楽しみつつ話した。
「普段はね」
「普段は?」
「何かたまに凄く調子が悪い日があるんだよ」
 こう人事課長に話した。
「妙にね」
「そうなのかい」
「昨日は凄く調子が悪かったんだよ」
 昨日の香澄は、というのだ。
「やけにね」
「そうだったんだね」
「ところが今日は普通だったよ」
 普通の事務課のエースと言っていい仕事の出来だった、実際に。
「これがね」
「その日によってムラがあるタイプかな」
「いや、普段は本当にね」
「出来るんだね」
「凄くね、けれどたまにね」
「かなり調子の悪い日がある」
「そうなんだよ、何かそれがわからなくてね」
 どうしてたまにでも調子の悪い日があるかだ。
「不思議に思っているんだよ」
「成程ね」
「まあ人間大なり小なり調子の波があるね」
「それはあるね」
「そうだね、それは眞鍋君もなのかな」
「そうじゃないかい?何時でも絶好調な人なんかね」
 人事課長も言う、串カツ
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