第1部 着鎧甲冑ヒルフェマン
プロローグ
第1話 物語の始まり
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緑色の鉄拳が、人間を貫く。
背中から飛び出す握りこぶしが、その身体に大きな風穴を作り上げた。
――いや、それは人間ではない。人間に近しい存在として造られていながら、人とは掛け離れた歪なからくり。
この、世に云う「ロボット」と呼ばれる物体こそが、「彼女」の拳に貫かれた正体だったのである。
「くッ……!」
そのからくりの身体を打ち抜いた本人は、悔しげに唇を噛み締め、拳を引き抜いた。刹那、機械の身体が砕け散り、その部品が火花と共に宙を舞う。
声色を聞けば、このロボットを砕いた人間が、十五歳程度の少女であることくらいは誰にでもわかることだろう。だが、その彼女が今、どのような顔をしているのかは本人にしかわからない。
身体に隈なく張り付いた緑色のスーツに全身を包み、同色の仮面で顔を覆い隠している以上は。
「ハァッ、ハァッ……! こ、これで十三体目……まだ居るの……!?」
仮面越しに少女が見ている世界は、薄暗く閉鎖的な一室であり、彼女の足元には同じようなロボットの残骸が幾つも転がっていた。
ここは彼女とその家族が暮らす、人里から離れた小さな研究所。
そこでささやかに、それでいて幸せに彼女達は暮らしていたはずだったのだ。このロボット達が、研究所を襲う瞬間までは。
「お、お父様ぁああーッ! お母様ぁああーッ! 返事して! 居るなら返事してよぉぉッ!」
少女は家族の身を案じ、叫ぶ。しかし、狭い研究所の中で帰ってくるのは、自分の声だけ。その現実に肩を落としつつも、彼女は諦めまいと周辺を走る。
厳しくも優しい両親。子供のように小柄だが、穏やかに自分を支えてくれる祖父。自分に良くしてくれた、父の助手達。
――そして数ヶ月前に姿を消した、父の一番弟子であり、兄のように慕い続けてきた一人の青年。
少女が家族と、家族のように想う人々の姿が、浮かんでは消えて行く。みんな無事でいて欲しい、その一心だけを胸に、彼女は戦場と化した「自宅」を駆け抜けた。
そして、今朝まで家族で団欒を囲んでいたはずのリビングにたどり着き――変わり果てた世界に、少女は戦慄を覚えた。
割れたテーブルやテレビの傍に、何人もの人々が倒れている。全員、顔見知りの助手達なのだ。
「お、お嬢様……よ、よくぞ、ご無事で……!」
「みんなッ……! そんな、こんなの、こんなのって……ッ!」
「落ち着いて下さい、お嬢様……私達は、誰ひとり死んではおりません。あのロボット軍団、私達を殺すつもりはないようですが……」
死者はいない。それが不幸中の幸いに感じられたのか、少女は思わず胸を撫で下ろしていた。だが、死人が出ていなければいいわけではない。
まだ、見つかっていない人がいるのだから。
「うぅ……
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