第26話 陸軍長官の正妻と幼馴染の妾 Ev09
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……山下閣下……」
福原が顔を上げると、目の前には陸軍長官の山下利古里がいた。
陸軍長官の軍政は今村大将が代行、軍令は参謀本部に任せて、
今は陸軍海兵隊の提督として伏見軍令総長に協力している。
「此処は海軍の軍令部だ。公式の場でないなら、
陸軍みたいな余所余所しい閣下は止めて欲しい」
「……はい。それでは……山下提督とお呼びしますが、よろしいでしょうか?」
「ありがとう。それで福原提督、
お兄様ということは、従兄の平良中将の下の名前かな?」
「あ、いえ……その……あーちゃんは……司令部総長のことです。
空(あき)お兄様の幼い時の呼び名で……」
「そうか……伏見は人のことを下の前で呼び捨てする癖に、
自分は下の前で呼ばれることを嫌がるからな」
「昔からそうでしたよ。
女の名前みたいだと周りから揶揄われてましたから」
「命知らずな奴らがいたものだ」
「ふふふ、北郷一刀流の道場に通う前は引っ込み思案で大人しい方でしたから」
「……そうなのか?」
「はい、妾の子とだと虐められて……
他人とは遊んだりせず、図書室に籠って独りで難しい本ばかり読んでました」
「勉強家、読書家なのは知ってるが少し意外だ。どうして道場に?」
「はい。あきお兄様のお母さまが、
日本男子なら、いつか大事な女性を守れるように強くなりなさいと……」
「それで北郷一刀流を学んだのか。納得だな」
「道場の師匠は目録を授けたときに
刀剣の扱いは一流でも、女性の扱いは三流だと言ってましたが……」
「ふんっ、北郷一刀流の開祖は“種馬”だと言われるほどだからな。
免許皆伝で破廉恥長官みたいな人間にならずに良かったと思う」
「ふふふ、そうかもしれませんね……」
「うらやましいな。幼い頃からの伏見を知ってる人間は多くない」
山下は少しだけ悲しそうな表情をする。
「も、申し訳ありません」
「いや、いいんだ。
遠藤秘書官から福原提督が昔から伏見を慕っていたのは聞いてる。
私の方こそ、想い人を奪ったようなものだ……すまないと思っている」
「そ、そんな……! お見合いをして双方の同意の上での婚約です。私の恋慕など一方的で」
「婚約といっても山下家と伏見家の政略婚の意味合いが強いのも分かってる」
「山下長官は、女性の私から見ても……あき兄様に相応しい、素敵な方だと思います……」
「すまない。少し自虐的過ぎたな」
「……それに私は第八艦隊の指揮官として、ハワイに侵攻する太平洋艦隊に配属されます」
「伏見が、福原提督を疎んで正規艦隊の指揮官に推薦したと?」
「はい……」
「伏見が三笠の副長に選ぶ人間は能力があっ
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