第一章
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カオスになる心
ジュゼッペ=マルスキーノはしがない芸人だ。テレビには出ていて知名度はそれなりにあるが彼の国であるイタリアではこうした評価だった。
「所詮は芸人だね」
「面白いだけで」
「演技も大したことないし」
「歌は下手だしね」
「最近持っている芸もマンネリだし」
「ちょっと弱いね」
「将来性ないかもね」
こうした評価だった。本当にしがない芸人だった。
その彼だがまだ独身で周囲によくこう漏らしていた。
「しかしね」
「しかし?」
「しかしっていうと?」
「うん、結婚したいんだけれど」
周囲にいつも言うことだった。
「誰かいないかな」
「結婚ねえ。そういえばあんたもう二十八だよな」
「二十八歳になったね」
「そろそろ結婚してもいいね」
「そうした歳だね」
周囲も彼の話を聞いていつもこう言う。だがこの言葉もいつも言うことだった。
「けれどあんたあれだろ」
「結婚するにしても相手食べさせていける?」
「仕事不安定だよね」
「ピン芸人だから」
「それなんだよ」
彼自身も難しい顔になって言う。顔立ちは濃く一見すると明るい感じだが素顔の彼は真面目で意外と深刻に考える方だ。
そうしたステレオタイプのイタリア人とは少し違う彼はいつもこのことについて周囲にその暗い顔で言うのだった。
「今はテレビに出ているけれど」
「それでもだよね」
「不安定な仕事だから」
「明日どうなるかわからない」
「何時消えるか」
「僕の仕事はそうだよ」
だからこそ必死に頑張っているがそれでも評価は変わらない。
「本当に明日スパゲティが食べられるかどうかも」
「わからないね」
「明日のことさえも」
「そんな僕が結婚できるか」
言うのはいつもこのことだった。
「どうなんだろうね」
「逆玉とかどうかな」
ある日友人の一人が悩む彼にこう言った。
「それは」
「逆玉?」
「あんた自分じゃどうなるかわからないだろ」
「本当に不安定な仕事だよ」
楽天的にはいけない。彼にしてはそうだ。
「とてもね」
「だから。相手にね」
「お金持ちの女の子を選ぶ?」
「手に入れるんだよ」
友人の言葉はベクトルはあれだが前に出たものだった。
「ここはね」
「つまり騙す?」
「いやいや、騙すんじゃなくて」
「じゃあどうするのかな」
「仲良くなってそれで」
「結婚して?」
「後ろ盾なり安定した生活を手に入れるんだよ」
彼はジュゼッペにそうしろと言う。ジュゼッペの家は普通の労働者の家で裕福とは言えない。パイプやそうしたものも持っていない。
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