暁 〜小説投稿サイト〜
遊女
第二章
[1/2]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
「今も」
「そうじゃな。しかし生きておると考えるしかなかろう」
「うむ。それだからこそな」
「わしも捜しておるのじゃ」
 彼は強い声を出すしかなかった。そうしてだった。
 彼はだ。医師にまた言ったのだった。
「とにかくこれからもじゃ」
「捜すか」
「生きておる、絶対にな」
 そう信じることにしてだ。それでだったのだ。
 彼は吉原も江戸も歩き回りその娘を捜した。恩師の娘を。 その中でだ。
 彼は遂にこの話を聞いたそれはというと。
「何と、吉原にか」
「うむ。みちのくの訛りの女がおってな」
 岡っ引きの一人にだ。蕎麦屋で話を聞かされた。二人並んでかけ蕎麦を食いながらそのうえでの話だった。
「その女がいつもちゃんばかり言っておるらしい」
「ちゃん、父ちゃんかのう」
「そうなるのう」
 父親の呼び方としてはよくあるものだった。
「母親であることも考えられるが」
「それでみちのくの訛りじゃな」
「そうじゃ」
「先生はみちのくの生まれじゃ」
 それで長英にはそちらの訛りがあったのだ。彼は弟子であったので彼のそのことはよく知っていたのである。
 それでだ。彼はそこから言うのだった。
「ではそのおなごのところにじゃ」
「行くのか?」
「行ってみる。どの店じゃ」
「どの店かと言われても」
 どうかとだ。岡っ引きはここで難しい顔で蕎麦をすすった。 
 それからだ。こう言ったのだった。
「噂を聞いただけじゃ」
「噂か」
「そうじゃ。そんな娘がおるとな」
 岡っ引きが聞いたのはここまでだった。
「吉原におると。そう聞いただけでじゃ」
「しかし吉原か」
「うむ、そこじゃ」
 その吉原だというのだった。
「そこにおるらしいな」
「店はわからぬか」
「吉原の店は多いぞ」
 岡っ引きは困った顔になって返した。
「幾つあるかわかるかというとな」
「難しいか」
「あんたも吉原に言ったことはあろう」
「しょっちゅう行っておるわ」
 その娘を捜す為だ。遊ぶ為ではない。
「しかし。あそこは」
「そうじゃな。店が立ち並んでおってな」
「女に客に。下の方に行けば長屋の様にな」
「夜鷹まがいの女までおるな」
「店もどれだけあるかわからぬ」
 そこまで多い為だ。彼もその娘を捜しあぐねていたのだ。しかもだった。
「人も多過ぎてな」
「だからよ。わしも噂を聞いたが」
「具体的に何処の店というとか」
「わからん。しかも吉原にみちのくのおなごは多いぞ」
「かなりの割合じゃな」
 飢饉なり貧しさなりで売られた女ばかりだ。華やかな吉原だがその女達はそうして集められているのも確かだ。

[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ