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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
邪願 1
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登校する頃には厭な笑いのことなどすっかり忘れていた。
 学校の帰りに事務所によって歌のテープと楽譜、歌詞を受け取った。近日中にデモテープを録るから練習しておけと言われたが、その日はレッスンはなかった。
 家で大きな声は出せないので家路につく前、カラオケ店でしっかりと歌の練習をした。
 さらに翌日。いつもの基本手なボイスレッスンのあと、前日にもらった曲を試しに歌ってみた。講師は厳しい表情でなにも言わなかった。
 マネージャーの松岡も顔を出していて、彼のほうは褒めてくれた。彩菜の声をいつも評価する彼だが、歌に気持ちがこもっているとか、今日は特に褒めてくれた。
 なので叱られなかったのは上手く歌えたからだと良いほうに解釈して帰路についたのだが、またあの暗闇にさしかかったとたん、不安がかま首をもたげてきた。

(なにも言ってもらえないのは見捨てられたからかも……。言うだけの価値なんかないって思われたのかも)

 松岡の上機嫌な顔を思い出す。あれも、あの高評価も嘘なのかもしれない。営業もこなす松岡は機嫌が良くても悪くてもいつも笑っているではないか。
 ペダルをこぐ力が失せて、彩菜は暗闇の中で止まってしまった。
 そのとき。

 ひっひっひ……。

 あの笑いが聞こえた。
 それだけではない。

「〜〜〜〜」

 かすかに声も聞こえた。日本語とは思えない、なにか、不思議な音の羅列のような言語。
 彩菜の聞いたことのない言葉だ。だがなぜか理解することができた。

「あたしがだれかのものって、どういうこと? 一八歳になったらだれの花嫁になるっていうの?」

 なにを口にしているのか、つぶやきが漏れてから彩菜は自分の言葉になんの根拠もないことに思い当たった。そもそもさっき聞こえた意味不明な音がどうして言葉だと思えたのか、しかも意味まで。
 
「〜〜〜〜」

 また奇妙な音が、それも彩菜のすぐ耳元でささやかれたような気がした。ぞわり、と全身がふるえ、あわててペダルを踏みこんだとたん、なにかが自転車の前に投げ込まれた。いや、あるいは飛び込んできたのか。止まるには遅すぎたし避けられるほど彩菜の運動神経は優れていなかった。

「ミギャーッ!」

 骨の折れるいやな音とともに耳をつんざく叫び。

「いやぁぁぁっ、嘘でしょう!?」

 猫を、轢いてしまった。
 無害な生き物を傷つけたことへの生理的な嫌悪感と罪悪感に駆られ、なかばパニックにおちいって明るい道へ突き進む。車道に飛び出しそうになるのをなんとか曲がり、自転車を地面にたおすように置いて、そのかたわらに座り込む。

「〜〜〜〜」

 その奇妙な音は彩菜の耳にはこう聞こえた、『おまえはわしらのものだ』『花嫁になる約束を破ったらこうなるぞ』と。


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