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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
邪願 1
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彩菜に千載一遇の好機がおとずれたのだ。
アイドルになってちやほやされたいわけではない。自分が人に評価される、認められる姿を見て欲しい人がいるのだ。多くの人に認められれば、その人だって認めてくれる。それが彩菜の望みだ。
彩菜の家は都心から私鉄で三〇分。駅からさらに自転車で一〇分ほど。途中には街灯も少なく、週に三回のレッスンを終えて帰る頃にはあたりは真っ暗だった。
はっきり言って、こわい。
いつもなら録音したラジオ番組や音楽を聴いて恐怖をまぎらわせるところだが、あいにくと電池切れだ。なので自分で歌う。もしかしたらエンディングを歌うかもしれないアニメの前シリーズで使われたキャラクターソングで、歌っているのは彩菜とおなじ事務所の先輩だ。その女性はいまの彩菜には雲の上の人のように思える。
『でも、いつかは、あたしも――』
ふと見上げれば夜空に星。
自分もあのような高みへと昇れる。あんなふうに輝ける。
人けのない暗闇の道も今夜は星明りだけでじゅうぶんに思える。出るという噂の痴漢もいつ起こるかわからない霊災も、簡単に撃退できそうだった。先日ガヤで参加した陰陽師ものアニメでヒロインが霊災を修祓した場面を、彩菜は思い出した。
暗い道を抜け、明るい通りに出るところで歌が終わりかけた。サビのフレーズを口ずさむと体がふわりと浮き上がるような高揚感につつまれる。そのとき――。
ひっひっひ……。
笑い声が、はっきりと耳にとどいた。
「え? なに? ええ? えっ?」
あわてて自転車を止めた。ブレーキの音がなに者かの笑い声をかき消す。
厭な笑い声だった。
嗤い。嘲笑。嘲りの感情がこめられた、自分に対する明白な悪意を感じたのだ。おまえになんか、できやしない。そんなふうに言われた気がした。
「……」
あたりを見回してもなにもいない。どこにも動く影などない。
(空耳、きっとそうよ)
さっきまでの幸せな気分は氷解していた。早くこの場から離れたい。自転車に乗って数十秒もペダルをこげば、通いなれたコンビニが煌々と光を放っていることだろう。
自転車を動かそうとした、そのとき、視野の片隅でなにかが動き、かさこそという虫のうごめくような音が聞こえた。
猫だろうか、犬だろうか、ちょうどそのくらいの大きさに思えた。
だがそうだったならばかさこそという音を立てるだろうか。
たしかに聞こえた。先ほどの厭な笑い声よりもはっきりと。
(まるで大きなゴキブリみたい)
思わずそんな連想をしてしまったとたん、ぞくりと全身が粟立った。
自転車に乗り直して全力でペダルをこぐ彩菜の耳の奥で、なんどもなんども厭な嗤いが木霊していた。
その日はそれ以上おかしなこともなく、翌日になって
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