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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
邪願 1
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や風景、動植物などの自然を題材にしていて、木の枝や花びら。細部まで緻密にほどこされた細工が作り手の高い技量をうかがわせた。
「俺のはただの黒漆塗りで、いささか芸がないな」
「うちにいっぱいあるから、倉橋家に婿入りすれば全部秋芳君のものよ」
「なかなか魅力的な提案だが、倉橋の家に入るとなると相応の勤めにつかなきゃならんだろう、それがめんどくさいなぁ」
「楽な役目をまわすよう、お父様にお願いしてみるわ」
「そのときはぜひそうしてくれ。楽な閑職に就いて日がな一日読書や茶の湯に興じるのが俺の夢のひとつだからな」
「陰陽T種を取って一二神将になるつもりは……ないのよね」
「とうぜん。あんなのになってみろ、休むいとまもなくなるわ。人は生きるために仕事をするのであって、仕事をするために生きているのではない。どんなに収入があっても、自分の時間がないんじゃ生きている意味がない」
この世は楽で満ちている。
美味い酒や料理、美しい絵画や彫刻、面白い映画や小説、玲瓏たる音楽や演劇、友や恋人との語らい――。
自分は生きるのが楽しいのだろうと、秋芳は思う。
「しかし実務以外にもお勤めはあるしなぁ、儀式とか式典とか。ああいうのはかったるくてきらいだわ」
「そういう『式』を司ることこそ、陰陽師の本来の仕事でしょ」
「いや、俺は呪禁師だし」
「じゃあお医者さんにならないと」
「陰陽医は資格を取るのがおっくうだ、それに俺は人の命をあつかうような責任ある仕事はむいていない」
呪禁師。禁じられた呪いの術。などという不気味な字面をしているが、実際は医術であり、律令制時代に典薬寮という薬をつかさどる部署に属して薬草を栽培したり呪文を唱えて体に障りをもたらす悪しき気を祓う任を負っていた。
道術には禁呪法という呪符をもちいるまじないがあり、これが元になっているとされる。奈良・平安時代のものと見られる木簡に書かれた呪符が日本全国で発掘されており、これを書いたのが呪禁師だ。
疫鬼退散、病気快癒を祈祷するものだが、たんなる迷信と簡単に切り捨てるものでもない。プラシーボ効果的な意味があった。抗生物質もないような医療の未発達な時代、薬の効果もたかが知れている。ならば呪符のほうが効き目がある。そう信じることで実際に症状が改善することもある。
これも一種の乙種呪術であろう。
ちなみにこの呪禁。日本に根づくことはなかった。
陰陽道の安倍晴明や真言密教の空海のようなカリスマ、スターが現れなかったこと。また典薬寮に呪禁師を置いたのは唐の制度を模倣しただけで、当時の貴族たちが凶事に遭ったさい頼りにしていたのは僧による祈祷や神社への供物奉納であった。
飛鳥、奈良、平安――。
時代が経つにつれ呪禁師の零落はいよいよ顕著になり、平安時代に陰陽師や密教
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