第8話 試用期間
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をしばらく見ていた。
「冷泉殿、いずれはこれをあんこうに……」
「──気が進まん」
「え? ちょっと待ってくださいよぉー」
麻子はひとことそう言っただけで、優花里が止めるのも聞かず、校舎に向かってすたすたと歩き去ってしまう。
麻子はエンジン付きの乗り物であれば(試したことはないが、おそらく飛行機も)取説を見ただけで動かせる人間だが、その取説さえ見ようとしないというのは異常だ。
その時折悪しく昼休みも終わりが近づき、授業開始の予鈴が鳴る。
戦車倉庫前の営庭に居合わせた戦車道履修生たちも、三々五々と散っていき、あとには優花里と原野だけが残った。
原野はちらりと優花里の方を見たが、すぐに作業員たちに件の戦車を倉庫に運ぶ作業を命じ、優花里には肩越しに「また後ほど」と告げると、自分も搬入作業に加わった。
戦車は衝撃吸収剤をあちこちにつけた、納車前のままの状態で特殊なトレーラーごと倉庫のドア前に運ばれ、油圧フォークで倉庫内に収められる。
梱包資材をすべて外し終わったあと原野だけが優花里の所にもどり、ハッチをロックしているキーを渡し、書類一式を渡す。
「これが納車でしたら、お客様に検収していただくまで私も立ち会いますが、仮納品ですし、あとは皆さんで自由に見ていただいて結構です」
では何かありましたらご連絡くださいと言って、原野と他の社員たちは大洗港区の桟橋に降りていった。
その日の放課後。
会長室で書類を眺めていた優花里のもとに、前会長角谷と、自動車部を引退したナカジマがやってきた。
角谷は高校時代の彼女のトレードマークであったツインテールをほどき、普通のロングにして年齢相応の私服姿であったため、単に背の低い上級生になっている。
一方ナカジマは、以前からの自動車部作業服のオレンジに近い黄色のつなぎ姿だ。
「秋山ちゃん。西住ちゃんから聞いたけど正体不明の人物からの補助金を受け入れたんだってね。それとなんかアウトレットみたいな戦車を買うとか」
いままでの容姿も「情報操作」の一環だったのだろう。
角谷からはいままでの気楽さが消え、優花里は何か詰問されているような気分になる。
優花里がいろいろと隠し事をしていることが、それに拍車をかける。
「ほ、補助金に関しては、次年度も我が校が全国大会に出場することを条件とした寄付であり、寄贈者が匿名でという強いご希望をお持ちですのでそうなっただけでして、別に何か裏があるわけではありません! それに我が校に補助するのは大洗町です」
「……ふーん」
角谷は本当の無表情だ。この顔が実は彼女の本来の姿ではないかと優花里は思う。
背中にいやな汗を感じる。
何しろ相手は、トップ官僚だろうが大流派の家元だろうがいかようにでも操っ
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