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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
邯鄲之夢 5
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残されたのは妖術に翻弄された商人と、その側近のふたりのみ。

「天竺渡りの好色淫乱な妖術使いが、好き放題しおって……。だがやつの力はあなどれぬ」

 壁に打ち込まれた鉛玉を見て蒲寿庚はそう独言した。





 崖山沖。のちに香港と呼ばれるようになるあたりを大量の船団が走る。
 内陸広い中華の地に住む多くの人々にとって、海というのはある種の異界だ。
 海に馴れ親しんだ島国にすら「板子一枚下は地獄」という言葉がある。
 まして河北や中原、遠く西域や北方から連れて来られた兵士たちにはかすかな潮騒すら不安を掻き立てる不吉な騒音に聞こえた。
 生まれてから一度も海を見たことのない者も少なくはない。
 兵士たちは不安と恐怖にさいなまれていた。

「……こんどのいくさ」
「あ?」

 立哨の番に立っているふたりの兵士のうちひとりが慣れない波音と心細さに耐えられず沈黙をやぶった。このふたりもまた海から遠く離れた荊州南部は長沙の出身で、泳ぎもろくにできない。

「こんどのいくさは妖術使いや妖怪が相手だって言うじゃないか」
「ああ、そのために道士や僧侶を多くつのったんだろう。この船にもたくさん乗ってるぜ」
「あてになるのかねぇ、なにせ相手はひと晩で山に城を築いたほどの神通力の持ち主だぞ」
「ひと晩ってのは?言(ガセ)だろ。三日はかかったそうだぞ」
「なに言ってやがる、それでもじゅうぶんすごいだろ。人間業じゃねぇ」
「まあ、な」
「そんな人妖がいる戦地に飛ばされるなんてついてねぇぜ、まったく」

 ふたたび沈黙のとばりが落ちた、そのとき。

「破無明闇、日月光明。急ぎ急ぎて、律令の如くせよ!」

 なにものかの音声がとどろくや、漆黒の夜景が一変し、あたりが明るく照らし出された。甲板上に大きな光の球が浮いており、それが小さな太陽のように煌々と輝き、光を放っているではないか。

「なな、なんだ!?」
「ひえぇぇっ、妖怪だ、妖術だ、敵襲だ!?」

 周章狼狽するふたりの前に光球を背にしてひとりの男が姿を見せる。浅黒く精悍な顔つきで背中に長剣を負い、頭には冠巾をかぶり、足には雲履という下履き。いかにも道士といった装いだが全身にこれでもかというほど呪符霊符を貼りつけており、首から奇妙な文字や獣の顔が刻まれた盾を下げて胸当てのようにしていて、なんとも異様だ。

「くっくっく、、おまえらが夜闇に怯えているようだったので、明るくしてやったのよ」
「そ、その光の球はおまえの方術によるものなのか?」
「しかり。――破無明闇、日月光明。急ぎ急ぎて、律令の如くせよ」

 異装の道士がまたもおなじ呪を唱えて身につけた呪符のひとつを打つと、となりを走る船にも光球が浮かび上がり、煌々と行く手を照らす。
 さらに一隻、
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