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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
邯鄲之夢 5
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子はとっさに身をかがめて振り向きざまに呪符を投げつけた。ぴたりと重なっていた二枚の呪符が途中から一枚ずつにわかれ、空を飛ぶ。
 隠形していた人影は身体をひねって一枚目をかわした。そこへ二枚目の呪符が迫る。
 並の者なら防げなかっただろう。が、その者は不自然な姿勢から地に手をつき、大きく一回転して二枚目もかわした。音もなく着地して体勢をととのえ、京子に向き直る。
 全身に金銀の装飾具や宝石類を身につけた、褐色の肌をした若い男。蒲寿庚をからかった智羅永寿だ。

「乱暴だなぁ、ぼくの美姫たちが怯えちゃうじゃないか」
「美姫ですって?」

 隠形されていたのは智羅永寿の身ひとつだけではなかった。潮が引くように一部の景色が一変し、隠されていたものが現れる。
 玉輦(ぎょくれん)。あるいは玉輅(ぎょくろ)と呼ばれる皇帝専用の御車さながらに豪奢な玉の輿。
 金銀や宝石類で飾り立てられた天蓋の下には紫水晶で作られた吊灯籠(シャンデリア)。内部の壁をおおう真紅の天鵞絨の壁かけ。緋色の絨毯。中央には寝台が置かれ、絹布団が敷かれ、そこには肌もあらわな女性がひしめいていた。いずれも蒲寿庚のもとからかどわかしてきた妾たちだ。
 中華の女性だけでなく、褐色の肌に引き締まった体躯と長い手足をした胡人や白い肌に金髪碧眼、豊満な胸をした西欧人など、様々な人種の女性が身体をくねらせ、艶っぽい嬌声をあげていた。

「どうだい、どれも美しいだろう?」
「……この人たち、普通じゃないわ。あんた、呪術で彼女たちの心を縛っているわね!」

 彼女たちは一様に蕩けきった表情をしており、とろんとした瞳に意志の力を感じられない。まるで阿片でも嗅がされたかのように夢見心地の状態だった。

「恋慕の情は呪そのものといえるね、貴女もぼくに恋をする!」

 智羅永寿が満面の笑みを浮かべた。
 空から花びらとともに舞い降りた天人もかくやの美麗さ、褐色の肌は黒耀石の艶めきを放ち、唇の赤さは官能的、琥珀色の瞳は見つめるだけで吸い込まれそうになる。
 いささか鼻の大きさが気になるが、まさに絶世の美男子。

「ああ、愛しい人よ。ぼくにはわかる、ここでぼくと貴女が恋に落ちることこそ神話の頃より定められた運命(ディスティニー)空虚(ヴォイド)(ディル)を熱くさせるのは……、貴女という運命の女性(ファム・ファタール)との激しい(ハード)逢瀬(ジキジキ)しかなさそうだ。でもわかるよ、貴女だってそうなんだろう? ぼくと貴女はおなじ、この腐った世界を独り寂しく駆け抜けるロンリー・ウルフ。さぁ、はじめよう、ぼくと貴女。愛という名のシンフォニー、ふたりだけのセカイを! 闇に抱かれ、甘美なる地獄に堕ちるのさ! それが天からぼくたちに贈られる神罰という名の鎮魂歌(レクイエム)

 いった
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