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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
邯鄲之夢 5
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声を飛ばしたとしても、呪力の波動は感じられるはずだ。それすら感じられない。つまりこの声の持ち主はかなりの隠形上手ということになる。

「……声はすれども姿は見えず、ほんにおまえは屁のような」

 これは落語や講談でよく使われる言葉だ。祖母につきあって寄席で演芸を観賞することのある京子は若者の知らないような慣用句を知っていた。
 もともとは『声はすれども姿は見えぬ、君は深山のきりぎりす』という、男のおとずれを待つ女心のやるせなさを表現した、江戸時代の初期に作られた名歌なのだが、見ず知らずの男相手にそのような意味を持つ原典を口ずさむ道理はない。

「これはこれは! おもしろいことを言うお嬢さんだね、実に機知に富んだ言葉だ。でもおならってのはヒドイなぁ。うら若き乙女が屁なんて言葉を口にするのはよくないよ」
「あたしは自由な国の沈黙しない女よ、言いたいことはなんだって言うし、書きたいことはなんだって書くわ」
「ふむ……、宋人か」

 宋の太祖趙匡胤は言論をもって士大夫を殺さず≠フ原則を作り、宋朝はこれを国是としていた。
 声の主は自由闊達に意見する京子を宋人だと思ったようだ。

「貴女はなにもの?」
「あたしはあたし」
「そう、貴女は貴女だね」
「そう言うあんただれよ?」
「ぼくはぼくさ」
「そりゃあんたはあんただけど、そのあんたはだれよ?」
「これはまた哲学的な問いだね、ぼくの名は智羅永寿。天竺では少しは名の知れた存在さ。じゃあ、あたしはあたしという貴女はだれだい?」
「あたしはあたしという貴女はだれだというあんたはだれよ?」
「あたしはあたしという貴女はだれだというあんたはだれよという貴女は――」

 質問に対して質問で返す奇妙ななんだとはなんだ¥態がしばらく続く。
 会話になってない。
 それもそのはず、両者は呪術戦を、甲種呪術を直接ぶつけ合う前段階の駆け引き。乙種の心理戦をくり広げていたのだ。
 なにしろ相手は姿を見せていないのである。相手の位置も正体もつかめない、逆に相手からははっきりと居場所を知られている。これは呪術者にとって、いや呪術者ならずとも首に刃物をあてられているような状態だ。
 京子はざれ言をくり返しつつ、徹底的に防御を固め、索敵に尽力した。無数の呪術的偽装と穏形が展開されている。
 平凡な呪術者ならば隠形していることさえ知覚できないであろう緻密な隠密。
 だが京子は星詠みの中の星詠み、如来眼の持ち主だ。大は龍脈から小は個人の気の流れまで、如来眼の力は森羅万象を見通せる。
 今の京子の見鬼能力は一流の霊視官と同等か、それ以上の精度を誇っていた。
 ――何者かが動いた。
 ごくごくわずかな身じろぎする気配。
 と同時に、よこしまな妖気が微風の如く肌をなでる。
 京
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