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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
邯鄲之夢 5
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矯術を使い、この場から逃れるつもりだ。
 かつて秋芳も同種の術を使い、渋谷から新宿まで飛翔したことがある。そのさいは身ひとつで空を翔けたが、高廉は盾を触媒に使い、この術をもちいた。
 一種の飛鉢術だ。
 飛鉢術。
 厳しい修業を積んだ僧や行者が神通力で鉢を飛ばす術で『宇治捨遺物語』の寂昭や『信貴山縁起絵巻』の命蓮という僧が使ったとして有名だ。
 盾は黒雲につつまれ、空を飛ぶ。それに乗って逃げようとしたのだが、それを見逃す京子ではない。

「オン・バザラ・タラマ・キリク・ソワカ!」

 真言とともに練られた呪波が高廉に迫る。
 それから必死に逃げる高廉。
 飛翔する神盾はぐんぐんと速度を増してゆき、太陽のような光に照らされた船が影も形も見えなくなった。
 空を翔けることのできる術者はそうはいない。京子の追撃がないことを確認した高廉は近くの浜辺に着陸する。

「ここまでくれば安心だろう、しかしあそこまで手強い術者が宋に味方をしているとは、これは用心せねば」

 岩に腰を落としてひと息入れたあと、立ち上がろうとしたのだが、なぜか腰が上がらない。まるで無数の見えない手で上から押さえつけられているようだ。

「な、なんと!?」

 ぽかり。

「あ痛っ」

 うろたえた高廉の頭に、まるでだれかに殴られたかのような痛みが走る。
 ぽかり。
 まただ。
 ぽかぽかぽかぽかぽかっ――。

「あ痛たたたっ! これはいったいどうしたことか!?」

 ふところから取り出した茘枝(ライチ)の葉でまぶたをなでた。茘枝は邪気を浄化する力をもった霊果で、この葉で目を清めると見えない者が見えるといわれる。見鬼のない者に見鬼を、見鬼のある者の場合はよりいっそう力を高める働きをもつ。
するとどうだろう、手が見えた。
 手だ。
 数えきれない無数の腕が虚空からわき出し、高廉の身を押さえつけて殴打している。
 高廉は逃走する間際に京子が唱えた真言を思い出した。
 オン・バザラ・タラマ・キリク・ソワカ。
 千手千眼観自在菩薩。観音の中でも特に功徳が大きく、観音の中の王という意味で蓮華王とも呼ばれることもある千手観音の真言だった。
 千本の手がありその手の掌には目がついており、千の手と目はどんな人達でも漏らさず救済しようとする広大無限の功徳をもった仏の真言。この世のどこにいても救いの手をさしのべてくるその力は、同時に地の果てまでも追ってくる追捕の腕でもある。
 逃げ切ったと思っていた高廉だったが、すでに京子の放った呪に捕らわれていたのだ。

『知らなかったの? 陰陽師からは逃げられないのよ』

 遠く離れた場所にいるはずの京子の声が耳元に響く。
 ぽかぽかぽかぽか、ぼかぼかぼかぼか、ボカボカッ、ゲシゲシッ――。

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