暁 〜小説投稿サイト〜
東京レイヴンズ 今昔夜話
夜虎、翔ける! 4
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夢は終焉を迎える。

「もう気づいているんだろ、これが夢だって」
 
 これが夢の世界の出来事だと、うすうす感じてはいた。そんなのは嘘だと。現実にはそんなことはないんだと――。
 幸せは空から降ってこない。努力してつかみ取らなくてはいけない。
 人生で嫌なことはいっぱいあった。
 自分に生きている価値があるのかと悩んだこともあった。
 だが、もうそんなことはどうでもいい。
 平坂はわずかひと晩の夢で三年分の経験をした。夜虎とともに過ごした経験は虚構にすぎない、だが虚構もまた真実なのだ。映画や小説といった創作物は現実のものではない、だがそれに接し、感動した者にとってそれは絵空事のひと言でかたづけられるような簡単で無価値なものではない。
 本を読むことは旅をすることと似ている。
 人は読書を通じて、それまで知らなかった世界や感情。人生を旅することができる。行ったことのない南の島の青さと緑に目を細め、極北の凍った風の匂いを嗅ぎ、身を焦がす恋をする。名もない男や老女、さすらう犬になる。
 そのたびに自分の中の世界が広がってゆく。宇宙が誰にも気づかれないうちに広がるように。
 だから図書館や映画館、書店やゲームソフトの中には世界が詰まっている。いろんな時代、いろんな物語、いろんな命。そして死。
 フィクションとは、けっして無意味なものではない、現実のシミュレーションでもあるのだ。
 三年におよぶ夢の世界での生活は、平坂を変えた。
 自分は一人じゃない。生まれてきて良かったんだ――心の底からそう思える。

「春虎――、ううん、夜虎君。あたし陰陽師になる。力のただしい使い方を教えてもらいに東京に、陰陽塾に行くわ」

 何かを強く想うこと、何かを切に願うことは、それを叶えるための重要な力となる。特別な力などなくても、人は限りなく強くなれる。
 夢から目覚めた平坂橘花は、自分の足で新たな一歩を踏み出した。

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