夜虎、翔ける! 3
[1/12]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
春虎は印を結び、呪を唱えはじめた。
「――カンマン・ウンタラタ・ビギンナン・サラバ・ギャキギャキ・ケン・マカロシャダ・センダ・タラタ――」
実に奇妙な手印と真言であった。呪術に精通した者でも見聞きしたことのない、摩訶不思議な呪文。
だが見る者が見れば、その呪文と印に隠された秘技に気づき驚愕したことだろう。
春虎は不動明王の火界咒を逆から唱えているのだ。
「――サラバタ・ボッケイビャク・サラバ・タタギャテイビャク・サラバ・ノウマク――」
逆さ真言。
燃え盛る火炎を生じさせる不動明王の火界咒を逆から唱えることで、火を滅却する。本来とは真逆の効果をあらわせたのだ。
いかにいきおいがあろうが火は火。五行相生相剋、水剋火の理でもって消火することが可能だ。
たとえバケツ一杯程度の水ではとうてい消せないほどの火事でも、呪術によって生じた、あるいは呪をかけた水ならわずかな量でも鎮火できる。達人ともなれば杯に満ちたわずかな量の水で鎮火することができるだろう。
呪術とはそういうものだ。
だがそれにも限度がある。
火侮水。火が強すぎると水の克制を受けつけず、逆に火が水を侮る。
火薬や延焼剤などによって広範囲を焼き尽くす火勢をしずめるのは水行術でも容易ではないのだ。
それをおなじ火で、火界咒でもって火を制した。
逆さ真言。この世でただひとり、土御門夜光のみがあつかえる秘中の秘だ。
完全に消火したのを確認した春虎は見鬼の輪をひろげ、あたりを視てまわる。さいわいなことに火災に巻き込まれ、逃げ遅れた犠牲者はいない。また火の手は工員寮までまわらず、人の住む建物もぶじのようだ。
遠くから消防車のサイレンの音が聞こえてきた、そのとき。よこしまな気配が急接近してくるのを感じ、視線を上げた。
「これはおどろいた! あれだけの火を打ち消すとは……。さすがは北辰王、さすがは土御門夜光だ。ふ
ふふっ、うれしいぞ。これほどまでの呪術者が現代日本に転生するとは」
全身から霊糸をほとばしらせた地州が宙に浮き、傲然と睥睨していた。
「……飛車丸と角行鬼を振り切ったのか、うれしくはないがおまえも『さすが』だよ。呪術戦の腕だけならな」
「オラオラオラオラオラァッ!」
角行鬼の拳脚がうなり、肘と膝が空を裂き、地州を繭のようにおおう霊糸の鎧に打撃をあたえた。
霊的存在である式神の身体は、強固で高度な術式の塊だ。式神が自身の呪力を込めて放つ拳や蹴りは、それ自体が呪術といえる。それも通常の呪術にくらべて呪力の変換ロスが圧倒的に少ない。これは単純に敵を倒すことのみに主眼を置いた場合、極めて有効な手段となる。
物理的な攻撃に呪力が上乗せされている、ある意味チートな存在だ。
だが霊糸はそ
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ