夜虎、翔ける! 3
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はまちがいなんだよ、地州」
「…………」
「四神相応の地である京都も、南光坊天海の造り上げた最高の呪術都市である江戸も歴史上いくつもの災禍に見舞われ、壊滅の危機に瀕した。徳川の世は去り、天皇の威信も落ちた。だが依然として京都も東京も地上に存在し、繁栄している。皇室でも将軍家の人間でもない、多くの名もなき人々が幸せに暮らしている」
「…………」
「おまえの父親、神州はたしかに金と権力にまみれた俗物で、褒められたものじゃないが、この場所に工場を建てたのはまんざらまちがいでもない。金剋木。木気を制することで金気を強め、文字通り金を、財を得ることに成功したんだ。多嶋一族だけじゃない、この街に住むすべての人々がその恩恵にあずかっていた。おまえはそれをぶち壊しちまったんだ」
多嶋一族と癒着している関係者だけにかぎらない。立花自動車工場に勤務してまじめに働き家族を養い、ささやかな晩酌と月に一度の家族旅行を楽しみにしているサラリーマンは大勢いる。彼らを神州の悪行の共犯者として糾弾することはできない。
神州は支配者であると同時に保護者でもある。彼の支配を受け入れ、反抗しないかぎり、ささやかな幸福に首まで漬かることができるだろう。無実の罪で人をおとしいれるような悪行は論外だが、こと統治に関して神州のそれは平均点を大きく下回るほどのものではなかった。
「それがいかんのだ。小さな幸福に安住することは結局、大きな悪を容認することになる!」
「おれには呪術者による独裁体制を敷こうとするおまえのほうが大きな悪に見えるよ。……なんであれおまえの野望はここで消える。おれの手でつぶす」
そのとき、遠雷がとどろいた。
否、雷ではない。地鳴りだ。大地が鳴動したのだ。
大地がゆれる。
火災に耐えた工場の残骸が震え、うなり、おどり、倒壊する。
工場の金気によってせき止められていた地脈がいっきに流れ出した。
「ふ、ふははははっ。これだ、この力だ。この力を求めていたのだ!」
地州は朱色に光る刀を大地に突き刺した。
「なにをする気だ!?」
「龍脈の力をわが身に取り込む。北辰王夜光。あなたの呪術はたしかに凄まじい。だが龍脈の力にはおよばない。この力をもってこの多嶋地州は天下を制する!」
霊気を吸い取る力をもった妖刀丹蛭が大地のエネルギーを吸収し、地州へと送る。
膨大な気は春虎のかけた幻惑の呪を強引に解除し、なお地州の身体へと流れ込む。
「フォォォー、高まれわが霊力! 急々如律令」
地州の身体から火の粉が舞い、倒壊した壁や柱にふれると、たちまち赤熱し、飴のようにぐにゃりと曲がり、どろどろに溶けた。鉄の融点はおよそ一五〇〇度だが、このかすかな火の粉にはそれをはるかに上まわる高熱が込められているのだ。
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