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東京レイヴンズ 今昔夜話
夜虎、翔ける! 3
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、相手が一般人ならいざ知らず、おなじ陰陽師が相手では成功する確率は低い。
 成功させるには相手の防御をねじ伏せるだけの強力な呪力を瞬間的に発揮し、なおかつ相手の意表をつく、知らぬ間にかけるなどの工夫が必要だ。

「術の発動などまったく感じられなかったぞ……」
「「「「おいおい、おまえごときにさとられるほど焼きがまわってないぜ」」」」

 四体のミニ春虎がいっせいに口をひらく。地州はその間近にたたずむ首を失った春虎の胴体に刮目した。ずたずたに切り裂き、臓物を撒き散らしたはずの身体はいぜんとしてその場に直立し、漆黒の外套――鴉羽織の裾をはためかせていた。
 裏地に文字とも模様ともつかない呪文がつづられ、霊気がただよっている。

「鴉羽織……、それかっ」

 鴉羽織はただたんに呪力で防御力を高めただけの羽織ではない。
 飛行能力や自動防御・回避など、さまざまな能力を有している呪具。それも陰陽庁から禁呪指定されるほどの逸品だ。
 実は式神。人造式でありながらも使役式に近い三本足の鴉で、土御門家に代々つたわる竜と同格の霊力を誇る。
 数々の能力のなかには他者の視覚をあざむくというものもあった。影を拡大し、ゆらめかせることで、装備した者の位置を相手に見誤らせるのだ。
 物理的な幻術による防御機能。
 しかしいまの鴉羽織から発せられているそれは精神に作用する幻術だった。
 あるかなしかのかすかな呪力。だがそのわずかな呪力は確実に地州の精神を侵食していたのだ。ほんの数滴ずつ垂らされた無色透明の毒のように。
 それだけではない。たおすべき相手と悠長におしゃべりをしたのはなんでだと思う、と春虎は言った。
 そこにも、言葉にも呪か込められていたのだ。
 わざわざ長広舌ぶったのは相手の意識を鴉羽織からそらすため。実に巧妙な甲種言霊であった。
 春虎だけを避けて攻撃し、ありもしない幻に驚愕している。
 地州はもはや春虎の掌の中にいるにひとしい。

「ええい、いまいましい! ――オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ!」

 疾病治療。あらゆる状態異常を治す薬師如来の真言を唱えて解呪をこころみるも、効果はない。ある種の催眠状態にある地州にはまともに術式を組むこともできないからだ。

「……多嶋地州。ずいぶんと龍脈の力にご執心のようだが、おまえはその力を自分自身の手で破棄したんだ」
「なにぃ、どういうことだっ!?」
「風水に本当に力があるのなら、最初にそれをもちいた中国の王朝が今も滅びずに残ってなければおかしい。龍脈の力、風水というものは本来国を繁栄させる、その地に住むすべての人々を幸福にするものであって、特定の個人や集団をどうこうするものなんかじゃあない。個人の力でどうこうできるような次元のしろものじゃないんだ。その考え
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