夜虎、翔ける! 3
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……ああ、そうだよ」
「すぐにピンときたわ、だって変装もなんにもしてないんだもん。隠す気ないでしょ」
「まあな、おれがしようとしていることはけっして褒められたおこないじゃないが、それを陰陽庁に咎められる筋合いはない。必要以上にコソコソしたくはなかったんだ」
「あたしもあなたたちが悪い人だとは思えない。関係ない人に迷惑かけたくないから素性を偽ってる。そうなんでしょ」
「ああ、そうだ」
「けれでも、あたし、もう関係なくはない。呪術の世界の住人になれた。ううん、なるの。この龍脈の暴走を止めることでそれを証明してみせるわ」
「おい、やめ――」
春虎の制止を聞かず、平坂は巨木を抱きしめると、その中へと姿を消した。
「な――」
地州は無限ともいえる龍脈の霊気を制することができず、身心を滅ぼした。
しかし平坂はちがった。
彼女はいにしえより伝わる常世神道の正式な後継者。古き龍脈は彼女を受け入れた。
巨木が強い光を放ったかと思うと、そこには一匹の竜がいた。
平坂橘花は神樹を通して人身から竜身へと変化したのだ。
全身をつつむ青い鱗はまるでファイアをちりばめているようで、目の前の現象よりもその美しさに春虎たちは我を忘れた。
竜はその長大な身体をくねらせて上昇し、空を翔ける。
「木気の竜。青竜ね」
内心の動揺を微塵も表には出さず、早乙女が口をひらく。
「いわゆる四神とはまた異なる存在でしょうけど、いにしえより木気の龍脈の恩恵を受けていたこの地には神樹が生えていた。彼女はその神樹とひとつになったのよ。常世神とはその神樹に棲む霊虫だったのね」
「まるでユグドラシルに巣くうニーズヘッグだな」
「あれよりも品はあるわ」
「先輩も角行鬼も落ち着いてる場合かよ!」
平坂が地州のような最期を迎えることはないかもしれない。だが彼女があのまま人にもどらない可能性はある。
春虎は去年、相馬の血を継ぐ巫女が持ち出した鴉羽織により強制的に覚醒をうながされたことがある。そのさいの自分が自分でなくなる感覚はいまも忘れられない。
平坂が竜と化したままで人の意識も失ったとしたら、最悪霊災として修祓されることになる。
「おれは平坂をもとにもどす。先輩たちは龍脈を鎮める儀式の準備をたのむ」
「し、しかし春虎様おひとりでは」
「高速で飛翔することができるのはおれだけだ。……心配するなよ、すぐに終わらせてもどってくる」
春虎は飛車丸の返事もまたずに鴉羽織をひろげ、竜となった平坂のあとを追い、夜空を翔けた。
かつてみずからの意志とは関係なく変容する自分を救うためにひとりの少女が命を落とした。あのような悲劇は二度と繰り返さない。
平坂にはあとでこっぴどくお説教をしてやる――。
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