夜虎、翔ける! 2
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。氷の壁が出現するもすぐに熱気に溶かされてしまう。炎がすぎ去ることに期待をしたが無駄だった。火力はますます強さを増し、溶鉱炉の中にでもいるようだ。安倍晴明の再来とも称えられたほどの天才陰陽師の力をもってしても現代の科学が生み出した炎の前では無力だった。
ついにすべての呪力を使いはたし、たおれた。氷の壁は完全に蒸発し、いっきに熱が押しよせてきた。子どもたちの悲鳴がいっそう高まる。
薄れゆく意識の中、夜光は泣いた。
くやしい、くやしい、くやしい、この子たちを救いたいのに、救えない。
九死に一生を得たあと、かねてより要請されていた軍隊からの依頼を正式に受ける決意をした。
陰陽術の復活。
いかに呪力が強かろうが個人の力には限界がある。自分ひとりがB-29を何機か落としたところで戦況は変わらない。ありったけの治癒符を用意しても空襲による死傷者の数はそれをはるかに上まわる。
日本人はデタラメばかりの大本営発表を信じこまされ、まだ勝てる。神風が吹くという乙種呪術≠ノすがりついていた。
日本はじきに負ける。夜光の目には明らかだった。負けるならはやく負けてくれ。遠い戦地で飢えや病気に、焼け跡で苦しんでいる人たちを楽にさせてくれと願っていた。
だが祈りや願いではなにひとつ世の中を変えられない。
この国につたわるありとあらゆる呪法をひとつにまとめ、復活させる。
戦争に勝つためではない、人々を守るため。戦争に散った命を救済するため、そのために陰陽術を、呪術を現代によみがえらせる。
すべての命を救うため、そのために泰山府君祭を執り行うと――。
――過ぎ去ったことをふり返り、思いをめぐらしているときではない。一刻も早くこの惨状をおさめなければ。
いまの自分にはあのときにはなかった力がある。古人の業績を破壊し、古代から連綿と受けつながれてきた技法をいくつも根絶やしにして誕生させた秘技。
この国の呪法をぐちゃぐちゃにまとめあげて無理やり再編することで身につけた、新しい力が。
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