夜虎、翔ける! 2
[35/36]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
もにくばったまがいものと一緒にするなよ」
蜘蛛の糸は生物が生み出す物質の中では最高レベルの強度を持っているといわれる。糸の強度は同じ太さの鋼鉄の五倍で伸縮率はナイロンの二倍もあり、鉛筆程度の太さの糸で作られた巣があったとして、理論上は飛行機を受け止めることができるとまでいわれる。
常世神の糸はそれをさらに上まわる強靭さを有しているようだった。
「気をつけろよ角行鬼、やつはあれで人の身体をあやつる!」
「式神相手にそのような姑息な真似は不要よ。きてはぁっ!」
地州の身にまとった霊糸が鋭利な刃となって周囲をなぎ払う。
飛車丸は体術で避け、角行鬼は体内の霊圧を上昇させて防御するも、完全には回避しきれず全身がラグにつつまれる。こまかいダメージが蓄積されていく。長期戦は不利だ。
「形代に依りて傷を癒す。等しく害を返したり。血より生まれしは血に戻りて、燃えゆけ、変えゆけ、返りゆけ!」
相手の防御力を見て物理的な攻撃は効果が薄いと判断した飛車丸は呪術戦にきりかえた。みずからが負った手傷を相手に返す厭魅の呪詛を唱える。
漆黒の霊気が放たれ、地州の全身をくまなくつつみこむも、すぐに飛散した。地州の霊糸は霊的防御力にもすぐれているようで、飛車丸の呪詛が相手を害することができなかったのだ。
「エイイッ、脆弱脆弱ゥ! ぬるいわっ」
霊糸が乱舞し、妖刀が縦横無尽に旋回する。
「……どら。本気でやるか」
「ほう、おまえが本気を出すなら私は楽をさせてもらうぞ」
軽口を叩いた二体の護法の全身から猛烈な呪力が噴出される。
武と呪が入り乱れた闘争がはじまった。
猛々しく燃え盛る炎の熱気はすさまじく、一〇メートル以上離れた場所にいる春虎の眼球の水分を蒸発させ、まともな目視もままならない。
鼻につく臭気は燃焼剤によるものだろうか、呼吸すら困難な火災現場だった。
「……ひどいな」
あの日の、空襲の記憶が春虎の脳裏をよぎる――。
炎の中を逃げまどう人たち。
熱い。
どこもかしこも炎の壁だ。手持ちの水行符はすでに尽きた。冷気や水流を放つ呪術をいくら使っても炎のいきおいには勝てない。逃げ場はなかった。
火の手の上がらぬ場所などない。逃げた先もすでに火の海だ。
「あついよぉ、かあちゃん。あついよぉ」「あついよぉ、あついよぉ」
子どもたちの泣き叫ぶ声が聞こえる。だがどうにもならない、自分自身も限界に近い。禹歩を使い、地脈にもぐれば安全圏まで脱出することができる。だがこの子たちを見捨てて逃げることなどできない。
力尽き、地面に膝をつく。周囲からのみならず上空からも炎が、焼夷弾が雨のように降ってくる。
まわりにいた子どもたちを抱きよせて全力で冷気を放った
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ