夜虎、翔ける! 2
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メもTVゲームもなかった時代のほうが未成年者による殺人事件は現代の何倍も多かったのよ」
「ぐ、ぐ、ぐぬぬぅ……」
そんなやり取りがあったため今日の気分は最悪だった。
だれが最初に言い出したのか『モロモロ』というのが諸岡のあだ名だった。諸岡本人はこのあだ名で呼ばれることを嫌悪していたが、姓+名をつなげた単純明快なあだ名で呼びやすいため、生徒たちは好んで使っていた。
授業のさいちゅう、生徒の一人がなにげなく言った『モロモロ』のひと言がきっかけで教室じゅうに笑いがおきた。普段の彼ならばテキストのかどで教壇をたたき、いつもふところに入れている『腐ったミカン帳』に生徒たちの名を書き綴るだけだったが、この日は虫の居所が悪すぎた。
「こらぁ、きさま笑うんじゃない!」
生徒の一人を指差してあげつらう。
「きさまのようにどうころんでも普通の大学に入れないような偏差値の低いバカが調子にのるな! 笑うんじゃない、このバカ! この前のテストじゃ四教科も赤点だったそうじゃないか。そんなバカのくせに笑うな」
なごんでいた教室の空気がいっきに凍りつき緊張感がはしる。たしかに指差された生徒は成績が良いとは言えなかったが、それをわざわざ指摘し、テストの点まで持ち出して侮辱するいわれはない。
「この日本で人並みに生活しようと思ったら一流の大学に入り一流の会社に就職する以外にない。高校で落ちこぼれるようなどうしようもないバカは一生ドブの底をはいずり回る運命なんだ。わかったか腐ったミカンども――」
諸岡の弁は延々と続いた。ひとことひとことを口にするたび、教室内に毒気が満ち、生徒たちに怒りと緊張が広がる。
見えない糸のように――。
男子生徒のひとりが無表情で音もなく立ち上がる。妙な立ち上がりかただった。ふつう人が椅子などから立ち上がるとき、上半身が前にかたむくものだが、この生徒はかたむくことなく垂直に立ち上がったのだ。まるで頭頂部につながれた糸を上から引かれて起き上がるマリオネットのように。
「コラァ! だれが立っていいと言った、着席しろ!」
ずかずかと歩みより丸めたテキストで机を乱暴にたたく諸岡の横っ面を生徒の裏拳がひっぱたいた。
「ぶべらっ!?」
白目をむいてひっくり返る諸岡をほかの生徒たちがぐるりと輪になってとりかこむ。
「き、きさまら〜、生徒のぶんざいで教師に手をあげてただですむと思っているのか〜」
団塊の世代はおうおうにして頑丈で粗暴だ。顔面に一撃食らってひるむような諸岡ではなかった。
「すっころんだだけで骨折するようなもやしっこが、革命の闘士をなめるなよ!」
なにくわぬ顔をして組織に属し、体制側の飼い犬になる前の若いころは学生運動に参加して機動隊にむかって火炎瓶
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