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東京レイヴンズ 今昔夜話
夜虎、翔ける! 1
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定したはずだ」

 身固めをした時間は三寸の線香が燃焼する程度のものであったが、飛車丸の感覚的には一夜にひとしかった。
 長いようで短い一夜。このまま主に抱かれたまま永遠に時が止まってくれたら良いと、本気で思えたわずかなあいだ。

「無茶するなとか言ったけど、無茶させちまったのはおれなんだよな。いまの身固めで確信した。飛車丸、おまえ霊気が安定してない」
「…………」
「あのとき、無理に封印を解いたからだろ?」

 あのとき、というのは今から一年前の夏。春虎が陰陽庁とたもとを分けた夜の戦いのことだ。叛徒≠スる春虎の前に一二神将の一人が立ちふさがり、その者との激しい戦闘で飛車丸は強引な封印解除を余儀なくされた。

「なぁ、せめてコンに――」
「私はこのままの姿で春虎様の近くにいたいのです」
「でも……」
「この姿で、いさせてください」
「……そうか、わかった。でももうあんな、いまみたいな無茶は禁止な。そのときは問答無用でコンにもどすぞ」
「はい、お気遣いいただきありがたき幸せ。ですがご心配にはおよびません。飛車丸は二度と春虎様の懸念となるようなまねはいたしません」
「ああ、たのむぜ」

 やがて大芋虫の死骸からもやのようなものが立ち上がり、気化がはじまった。
 霊災は霊的存在なので死亡しても骸は残らない。もっとも霊災はなにかを核にして実体化するものなので、たおしたあとにその核が死骸となって出てくることはある。 鬼などのタイプ・オーガをたおしたさいに人間の死体が出てくる例がある。

「こいつはタイプ・ワームか……。芋虫みたいな動的霊災なんておれもはじめて目にする固体だな。…
ん、いや、まてよ。虫? ひょっとして常世神か?」

 常世神。大化の前年、富士川に住む大生部多(おおうべのおお)が橘や山椒につく蚕に似た虫を神と称し。これを祀れば若返り、財産も得られる。などと吹聴してまわり、人々を惑わした。

「ここは富士川に近い。いにしえの常世神だとしたら、おれたちは神様を殺しちゃったわけだな」
「神といっても新興宗教のでっちあげた偽りの神です。それを屠ったところで私たちが気にかける必要はありません」
「新興って…、一四〇〇年近くも前に生まれた宗教だぜ。すぐになくなっちゃったけど」

 常世神信仰は都にまで広がり、人々は虫を採ってきては祀り。財産を棄捨して幸福を求めたが利益はなく、被害者が続出した。それを見かねた山城国の秦河勝(はたのかわかつ)という豪族に大生部多は討たれ、常世神信仰は途絶えたとされる。
 ふとS教団のことが春虎の脳裏をよぎる。どちらもこの土地で発祥したつごうの良い奇跡をうたう新興宗教だが、なにか関連があったりするのだろうか。

「うん?」

 大芋虫――常世神の死骸が完全に朽ちたあと
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