夜虎、翔ける! 1
[44/46]
[1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
もつ呪術者の基本の隊列だ。
「ひふみよいむね、こともちろらね、しきるゆいとは、そはたまくめか!」
さらに後衛からの呪術による攻撃。蟇目神事の祝詞を唱えて左手を突き出し、右手を引きしめる弓を引く動作をして呪力の矢を射出した。
「KI、GIGIII……ッ」
呪力の矢は的を外すことはない。大芋虫の胴体に大小無数の風穴が開く。
さんざんに斬られ、射られ、焼かれ、凍てつかされる。主従の攻撃の前についに大芋虫は永久に動きを止めることになった。
「ふぅ……、けっこうしぶとかったな」
「おケガはありませんか、春虎様!?」
「おまえ、人の心配よりも自分の心配をしろよな! まったく無茶しやがって……」
春虎は全身ラグまみれで明滅をくり返す飛車丸の身体を強く抱きしめた。
「ハひゃあっ!? ハ、ハ、ハ、春とラ様ッ!?」
まったく予期せぬ展開に木の葉型の尻尾が大きくふくらみ、毛が逆立つ。
「動くな。身固めするぞ――」
そう言って呪を唱えはじめる。
身固めとは文字通り身を固めて災いや穢れから身を守る呪法で、同時に心身を癒し健康にして魂が肉体から剥離しないように体を抱えるようにしておこなう一種の鎮魂法だ。
『宇治拾遺物語』のなかに式神に打たれた蔵人の少将を救うため、安倍晴明が少将の身をひと晩じゅう抱きかかえて呪を唱え、式を返す逸話がある。
物質的な肉体をもたない霊的存在である飛車丸には一〇〇枚の治癒符を貼りつけるよりも効果のある治療法だった。
「――甲上玉女、々々々々、来護我身、無令百鬼中傷我、見我者以為束薪、獨開我門、自閇他人門――」
強く抱きしめたまま春虎の両腕が上下して飛車丸の全身をなでまわし、霊力の流出をおさえる。
春虎の体温がつたわり、その口から呪がつむがれるたびに吐息が耳をくすぐる。
(ああ……、春虎様!)
愛おしい。
思わず抱き返したくなる衝動を必死におさえる。これは治療なのだ。主は、春虎様は恋慕の情を抱いて抱擁しているわけではない。これはそのような行為ではないのだ……。
そっと目を閉じた飛車丸のまぶたの裏につややかな黒髪の少女の貌が浮かんだ。
土御門夏目、主たる春虎の想い人。
春虎は彼女を取り戻そうとして陰陽庁に弓を引いた。飛車丸もそのことに異論はない。一刻も早く彼女を取り戻して欲しいと思っている。夏目は飛車丸にとっても友なのだ。
だだ、そのとき自分は――。
涙ぐみながらもくったくのない笑顔を浮かべて手をのばし、春虎にしがみつく夏目。おなじく目を潤ませて固く抱きしめる春虎。
そんな光景を思い浮かぶ。
目を閉じたまま飛車丸はこぶしを強くにぎった。やるせない想いが胸の奥底でチクリチクリと疼く。
「――よし、これで霊気は安
[1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]
しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ