夜虎、翔ける! 1
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だが先ほどの糸とはことなり、霊的な種類のものだった。悪臭によって反応が遅れた飛車丸の身体に常人には目視不可能な霊気の糸がからみつき、その自由をうばう。
それだけではない。精神を侵し、支配し、本人の意思とは関係なく肉体をのっとり、あやつろうとするのが飛車丸にはわかった。
搗割の刃が春虎へとむけられる。
「この……、虫けら風情が、図に乗るなァァァッッッ!!」
最愛の主を自身の手で害させようとするその所業に飛車丸の怒りが爆発。
おのれを拘束し、あやつろうとする霊糸を強引に引き千切り、呪的拘束をぶち破る。
しかし力まかせの強引なやりかたは霊力にかかる負担も大きい。まして飛車丸は人としての肉体をもたない霊的存在だ。
生身の人間ならば激しい呪術の使用などで急激に霊力を失うことがあっても気絶するだけで死にはいたらない。状況によっては廃人になる可能性もなくはないが、その確率はきわめて低い。
だが飛車丸にとって霊力はおのれの存在維持に直結する生命力そのもの。霊的安定をたもつためにはきちんとした解呪法をこころみるべきなのだが、激昂した彼女はそれをいっさい無視した。
全身におびただしいラグを走らせ大芋虫に迫り、その肉角を叩き斬る。
「SYAaaaッ!」
大芋虫もまた頭部にラグを走らせ、苦痛の叫びをあげながら大量の糸を吐き出す。
またことなる種類の糸だ。最初の捕獲や霊力奪取、その次の操作を目的とした糸ではない。
一本一本が剃刀のように鋭利な糸が広がり、投げ網のように飛車丸を覆おう。これにからまれば全身をずたずたに切り裂かれてしまうことだろう。
だが飛車丸は実体化を解こうとはせず、修羅の形相で猛然と斬撃をくりだした。
「刀剣槍矢はこの十字の外に在り、人たる者は中に在る。禁矢刃!」
掌に指で『刃』という文字を一〇回書いた春虎がそれを飛車丸にむけ、呪を唱えた。
春虎の呪力が飛車丸をつつみ、護る。
刃の糸は飛車丸を切り裂くことができずにガリガリという硬質の音を立ててはじかれ、その身にかすり傷ひとつ負うこともなかった。
これは掌決とよばれる呪禁師がもちいた術の一種で、掌に文字を書くことで対象を避ける効果がある。たとえば山に行くなら『虎』や『蛇』、海や川なら『竜』と書くことで、行き先での災いを避けることができるという。
こんにちでも緊張したときに掌に『人』と書いて飲み込む仕草をすると緊張がほぐれるという乙種≠フ存在があるが、これなどは現代に残る掌訣の名残だろう。
春虎は矢や剣や槍のように切ったり刺したりする攻撃を無効化する呪を飛車丸にかけたのだ。
防御力のあがった飛車丸は守りを捨てて全力で攻撃に専念。春虎は数歩さがった位置で戦況を見る。
護法を前衛に出し、術者は後衛にまわる。護法式を
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