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東京レイヴンズ 今昔夜話
夜虎、翔ける! 1
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 晩夏の太陽が落とす光を受け、海面は燦々と輝いていた。
 海岸線に並行してのびる道路を少し異様な一行が歩いていた。なにせこの暑さだというのに黒い外套やら軍服やらスーツやら袖の長い制服やらと、実に暑苦しい恰好をしているのだ。

「この残暑だと海水浴ができそうだな」
「物見遊山に来たわけではない」

 長身で、それでいてスーツの上からでも筋骨隆々とわかる筋肉質で片腕の男のつぶやきを古めかしい軍服を着た妙齢の美女がぴしゃりとたしなめた。

「名案ね。赤いスクール水着とか、白いスクール水着とか、黒いスクール水着とか用意してあげる。コンちゃんはコンだけに紺色がいいかしら?」
「…………っ」

 白い制服を着た中高生くらいの小柄な少女の軽口に美女がなにか反論しかけるも、とっさに言葉が出てこず、口をぱくぱくとさせる。そんなひょうきんな表情でさえ凛としている。

「……海水浴か、いいな」
「春虎様!?」

 左目に眼帯を巻き、漆黒の外套をまとった青年の言葉に美女が意外そうな声をあげる。
 筋肉質な男の名は角行鬼、美女の名は飛車丸、少女の名は早乙女涼、眼帯を巻いた青年の名は土御門春虎――あるいは夜光と呼ばれる。呪術界最大の反逆者として指名手配されている、泣く子も黙る不逞にして兇悪なテロリスト集団だった。

「だけど今年はちょっと無理だな。来年、みんなで行こう。夏目や冬児や天馬、京子も鈴鹿もさそってみんなでだ」
 なにげない内容をなにげなく口にする。だがそこには大きな覚悟と決意が込められていた。





 東海地方某所に位置する立花市は人口六〇万、太平洋に面した地方都市で、古くから海上貿易で栄えてきた歴史をもち、第二次大戦後は工業都市として発展した。また最近では富士山の見える美しい砂浜を目あてに東京方面からの観光客も増えつつある。
 この街にある立花電子産業、立花自動車工業。この二社は多嶋という一族の支配下にあり、二社あわせて一年間に三兆円近い売り上げを誇っている。また直接ではないが銀行、新聞社、TV局、バス会社、不動産会社、ホテル、ゴルフ場、百貨店、出版社、土木建設会社など、すべて多嶋一族の息がかかっている。
 そのような街にある真森(まもり)学園は市街地より少し高い丘陵に建てられていた。
 男女共学の中等科と高等科があり、学園長は理事長と総長も兼ねている。名を吉良幸一といった。七〇近い齢のわりには姿勢のしっかりとした人で、実年齢より若く見える。
その吉良幸一が学園長室で二人の招かれざる客の相手をしていた。
 横柄にもテーブルの上に土足の両足をのせ、タバコを煙らせる闖入者に退席を願う。

「――もうしわけありませんが今日はお会いする約束はしておりません。そろそろ客が来る時間ですのでお引き取りいただけませんか」
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