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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
ある夜のふたり〜月語り〜
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たという。
 ひとりでも楽しいそんな暮らしを最愛の人と過ごせたらどんなに幸せなことか――。
 秋芳と京子は蓮の上で猫の兄妹のようにたわむれ、たわいもない会話をしているうちに、ふたたび月の話題にもどった。

「月にまつわる体験談とか、なにかある?」
「そうだな……。あれは山での修行を終えて京の町を中心に働いていた頃なんだが、こんなことがあった――」





 京都。
 土御門夜光が執り行った禁呪の儀式『泰山府君祭』が失敗して以降、霊災多発地帯となった東京だが、それ以外の地域にも霊災が起こる可能性はあった。まして京都といえば一二〇〇年の歴史を誇る古都であると同時に、昔から怨霊や鬼が跳梁する魔界都市でもある。東京に次ぐ霊災多発地帯だ。
 なにせ帝のおわす内裏の中にも平気で鬼が出る。宴の松原という平安宮の大内裏の西側にあった松林で女房が鬼に喰われた話は有名だ。
 作家の司馬遼太郎が宿泊したさい不思議な体験をした志明院。
 安倍晴明が式神を隠し、渡辺綱が美女に化けた鬼に遭遇した一条戻り橋。
 源頼政が鵺退治に使った矢尻を洗った鵺池。
 源頼光が髭切とともに源氏に伝わる名刀膝丸で退治したとされる巨大な土蜘蛛を封じた蜘蛛塚。
 小倉池、深泥ヶ池、千鳥ヶ淵、清滝トンネル、旧粟田口刑場近くにある歩行者トンネル、打合橋から尼子谷橋までの間の通称幽霊街道などなど――。
 様々なタイプの怪奇現象の報告があり、妖しき場所の枚挙にいとまがない。
 京都とは、そういうところだ。
 そのような場所に、ひとりの男がいた。
 まだ若い。少年のおもかげを残した青年、僧侶のように頭髪を剃った短身痩躯の青年。賀茂秋芳だ。
 血の色をした矢が全身に突き刺さっている。
 ――いや、ちがう。矢ではない。
 蛇だ。
 まっすぐに伸びた蛇が秋芳の身に喰らいつき、肉に牙を突き立てているのだ。
 ただの蛇ではない。呪力によって象られた魔性の妖蛇が一匹、二匹、三匹――。十匹も喰いついていた。
 激しい痛みが全身をさいなむ。だがそれ以上に苦痛をもたらすものがあった。
 呪詛だ。
 呪詛毒とでも言おうか、呪いの力が毒に変じていた。
 出血毒、神経毒、筋肉毒、発癌毒、腐食毒――。ありとあらゆる呪詛毒が蛇の牙から流れ出し、身体を蝕んでいる。
 常人ならばとっくに絶命し、死体はぐずぐずの肉塊に成り果てている。それほど強力な呪詛毒だった。
 全身に気をめぐらせ呪いに抵抗している。治療をするいとまもなく、ここまで遁走して来たのだ。
 一の辻で天狗の群れを蹴散らし、二の辻で百体あまりの牛頭馬頭の鬼を相手に奮戦したところまではおぼえていた。だがそこからいかにして魑魅魍魎の腕をかいくぐり、どこをどう逃げのびたのか、ここがどこなのか……。
 片目を眇めて見鬼を凝らす
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