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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
ある夜のふたり〜月語り〜
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くれるでしょ。あと、サティのジムノペディが聴きたくなるの」
「あー、それ俺も」
耳を煩わす雑音は雨粒が地を打つ響きの中に溶かされ、さらに重く湿った大気がそれを真綿のようにくるみ、吸収してしまう。変化のない単調な雨音はいつしか意識されることもなくなり疑似的な静寂が耳をおおう。
雨雲にさえぎられた陽光は大地に明確な影を刻まず、すべての情景が灰色の薄幕が垂れたかのようにぼやける。彩りの減った視界はさながら追憶の情景のように現実味を失い、瞑想にも似た心持ちになってくる――。
「天の原〜ふりさけ見れば春日なる〜」
「三笠の山に出でし月かも」
「いま来むと〜言ひしばかりに長月の〜」
「有明の月を待ちいでつるかな」
「月見れば〜ちぢにものこそ悲しけれ〜」
「わが身一つの秋にはあらねど」
雨に煙る満月を見ていて月を題材にした歌が自然に出たのを皮切りに、二人きりの百人一首暗唱大会が始まった。
「朝ぼらけ〜有明の月とみるまでに〜」
「吉野の里にふれる白雪」
「夏の夜は〜まだ宵ながら明けぬるを〜」
「雲のいづこに月宿るらむ」
「めぐりあひて〜見しやそれとも分かぬまに〜」
「雲がくれにし夜半の月かな」
「やすらはで〜寝なましものを小夜更けて〜」
「かたぶくまでの月を見しかな」
「心にも〜あらでうき世にながらへば〜」
「恋しかるべき夜半の月かな」
「秋風に〜たなびく雲の絶えまより」
「もれ出づる月の影のさやけさっ」
「ほととぎす〜鳴きつる方をながむればっ」
「ただ有明の月ぞ残れるっ!」
「なげけとて〜月やはものを思はするっ!」
「かこち顔なるわが涙かなっ!」
「ふふうーん? じゃ、これはっ? ――ひさかたの天つみ空に照る月のっ」
「ううん?」
それまで調子良く答えていた秋芳がつまった。
「百人一首じゃないな。聞きおぼえはあるんだが……、だれの歌だったかな……」
「失せなむ日こそ我が恋止まめ。――万葉集より、詠み人知らずよ」
「月がなくなる日があるとしたら、その時が私の恋心がなくなる時です、か……。月がなくなることなど
まずない、つまり私のあなたを想う気持ちは不変です。そんな意味合いなんだろうが、俺ならたとえ月がなくなろうが太陽が消えようが永遠にあなたを愛し続けます。という歌を作るな」
「じゃあ作って詠んでみせて」
「む……」
いざ即興で作るとなるとこれが存外むずかしい。伝えたい想いを現す言葉がなかなか出てこない。
これでは平安の昔などにひらかれた曲水の宴などに参加すれば恥をかくことになるだろう。
「どうしたの秋芳君、長考?」
いたずらな笑みを浮かべて、こちらの顔をのぞき込むように頭を下げた京子。その瞬間、秋芳が動いた。
「ひゃんっ!?」
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