暁 〜小説投稿サイト〜
Fate/Phantom Record
第一部
「月夜」

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時は、満月が昇る深夜。
夜空は、灰色の雲が漂っているせいで、月や星々の姿が微かにしか見えない。
そんな空の下のある場所、そこに生い茂る広い森があった。
その森の中に、1つの大きな建造物があった。
それは、広々とした庭に囲まれた古い洋風のレンガ式の構造で造られた大きな屋敷だ。
本館をはじめ、いくつかの棟と繋がっているその屋敷は、見る限り古いように見えるが、それと同時に裕福な人が住んでいると思えるほど立派でもあった。
そんな屋敷の1つの棟、その3階の廊下を一人の人間が歩いている。
長い廊下の側面に備わったいくつもの窓から出てくる僅かな月の光が、その者の顔を照らす。
栗色で、した内まきのショートカットの髪型に、瞳は綺麗な黒い目をした若い女だ。
女は、廊下にある1つのドア前で立ち止まり、右手でノックをした。
「入れ」
ドアの向こうから男の低い声が聞こえ、女はドアを開けた。
「失礼します」
女は、軽くお辞儀をすると部屋に入り、ドアを閉めた。
入った部屋は、薄暗く天井の明かりが消されていた。
唯一の光といえるものは、備わった机にあるランプと部屋に1枚しかない窓から放つ僅かな月の光だけだ。そんな中で、一人の男が椅子に座り込んで机で何かの作業を行っていた。
この部屋は、この男が使っている書斎だ。男は、ランプに照らされた机で古そうな羽ペンを使い、紙に何かをインク書きしていた。男の回りには、大量の本や資料、更には何かの小さな道具が机に置かれていた。
「準備の方は、どうなっている」
作業を行ったまま女に顔を向けず聞いた。
「はい、既に準備は出来ております」
「抜かりはないな」
「はい、問題なく」
「・・・そうか」
そう聞いた男は、作業を辞め両手を机について立ち上がると、そのまま真後ろにある窓の方を振り向き窓へと近づいた。暗がりで見なかった男の顔も月の光で照らされた。
男は、銀髪に緑色の目で、50を過ぎたように見える老けた顔をしていた。
「いよいよだな」
そっと月を見上げた。すると、男の瞳に満月が映し出された。
「今日も綺麗だな。この月は」
「そうですね」
女は、男の近くまで歩いてそう答えた。
「だが、・・・この月は、私が見て来たものとは全く違う」
男は、右手を動かし、首から掛けている金色のペンダントを握った。
「我が願いが、叶えられる日も・・・もう間もなくだ」
男は、ペンダントを強く握りしめ、月を睨んだ。その目は、何か強い意志が秘めているように感じとれた。

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