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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
万聖節前夜祭 5
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プが数多くしかけられています。危険ですので引き返してください。親切心からそんなことを言おうとした秋芳を先制して蝶太郎はこう言い放った。

「身分をわきまえろ。これは君みたいな青二才が利用していいエレベーターじゃない。どうしても乗りたければ私くらいの身分になってからにするのだな。もっとも何十年かかるかわからんが」

 おごり高ぶって人を見下すことで有名な都知事で、問題発言の多い人だ。過去にも『漫画の好きな人は人生行き止まり』や『漫画はアホにでも読めるから規制してあたりまえ。悪い漫画を撲滅すれば良い漫画が残る』などの発言をして批判されたことがある。
 冗談ではない。下世話で猥雑、不道徳。そういったエログロナンセンスの部分もふくめて、日本のコミック業界を支える力になっているのだ。
 お上から『清く正しい漫画だけを描きなさい』などと言われたら、業界全体が萎縮してしまうことだろう。
 この老いた都知事はすべての漫画家。いや、創作を愛する者全員にとって共通の敵と呼べる。
 それにしても今の言葉は国民の税金によって養われている者の科白ではない。秋芳の瞋恚に火をつけるにはじゅうぶんな暴言であった。

「俺は東京都民で納税者だ、つまりあんたのご主人様だぞ。そんなこともわからんのか、この無礼者!
 税金で養ってもらっているくせになに様のつもりだ、使用人は使用人らしく階段を使って上がり下りしてろ!」

 秋芳の怒号は不可視の鞭と化して、権力を笠に着た狗どもを打ちすえた。

「き、きさま、無位無官の民間人のぶんざいで猪鹿閣下になんという口を!」

 暴力団員か政治家の番犬以外の職にはつけそうにない黒服の一人が秋芳のえりをつかもうと手をのばす。だが逆に手首をつかまれ、次の瞬間宙を舞うことになった。顔面から地面に落ち、鼻っ柱と前歯をへし折られ、血の跡を残して悶絶する。これは小手投げ。あるいは小手返しと呼ばれる投げ技だ。

「このやろう!」

 残った黒服が拳を振るうが、腕をそえるようにして軽く受け流された。一瞬交差状態になった腕と腕。黒服が反応するよりも早く秋芳の肘が跳ねあがり、あごを打ち上げると、黒服は口から血泡を吹き出し、白目をむいて卒倒した。骨法の掌握と呼ばれる技法に近い技だった。

「ひぃぃ……」

 残った都知事と警備員が青ざめ、あとずさる。

「さっさと引き返せ。ただし階段を使ってな」
「は、はいっ、ただちに帰りますとも」

 暴力、財力、権力……。この三つの中でどれが一番強いかをあえて選ぶとするなら、やはり暴力だろう。どんな金持ちも権力者も殴れば死ぬからだ。だから純粋な暴力がもっとも強い。札束や葵の御紋などでは格闘家の拳脚は防げない。ゆえに権力者は純然たる暴力をもっとも恐れる。都知事と警備員はすごすごと退散した。
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