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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
万聖節前夜祭 5
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―」

 なにを言っているのか、ところどころしか聞き取れない。まるで夢を観ていると実感しているのに、夢の内容を変えられない時のようなもどかしさをおぼえる。
 白衣の男がなにかを言って席を立ち、部屋の奥へと進む。広只がその後に続く。
 別室はずいぶんと奥行きのある部屋だった。機械の生み出す振動音にまじって気泡のはじけるような水音や、動物の鳴き声のような、人のすすり泣く声のような、不気味な物音がひびく。だが暗いため全容は見えない。

「雰囲気を出すためさ」

 白衣の男が笑いながら広只に言ったような気がした。
 長細い水槽の前で足を止める。ずいぶんと大きな水槽だ。
 操作盤をいじると水槽内を下から照らす明かりがつき、内部があきらかになる。液体の満たされた水槽内にひとりの少女が浮かんでいた。

「能力は――と遜色ないんだけど寿命がね、いや稼動時間といったほうがいいかな。肉体年齢とは関係ないんだ、だからもっと上に設定できるよ。容姿だって変えられる、――好みにね」
「……さすがはプロフェッサーです、このように見事な反魂鬼をお創りなられるとは」
「おいおい、反魂鬼だなんて、そんな古臭い呼び方はよしてくれ。せめてオーソドックスに人造人間とかホムンクルス。あるいはバイオロイドとか言ってくれよ。ぼくの作品は西行の創ったできそこないとはデキがちがうんだからね」

 西行法師。出家前の姓名は佐藤義清。歌人として有名なこの僧侶には奇妙な伝説がある。
彼は山中での修行中に人恋しくなり、鬼が人の骨を集めて人間を創るという話を思い出し、自身もそれをこころみた。
 人骨を集めて見事に人を復元することには成功したが、術が不完全であったためか、できた人は生気に欠け、意味不明のことを言うだけで、とても話し相手になどにはならなかった。
 西行はその人を高野山の奥深くに捨て置いてしまったという。なんとも無責任な話だ。今でもその人は高野山の奥深くをさまよい歩いているのかもしれない。
 先ほどにくらべ会話の内容はかなり聞きやすくなった。それにしてもこの白衣を着た初老の男、年齢のわりにはずいぶんと軽い口調で話す。

(この白衣の男、どこかで見たおぼえがあるぞ。……プロフェッサー? まさか、大連寺至道!?)

 今から一年ほど前の三月、東京で上巳の大祓と呼ばれる霊災テロがあった。そのテロの首謀者はこともあろうに霊災を祓うべき陰陽師。それも十二神将の一人、導師(プロフェッサー)の異名を持つ大連寺至道だったのだ。
 彼はそのさい、みずからに高レベルの霊的存在を降ろそうとして失敗し、命を落としたとされる。
 事件発生直後はニュース番組などでなんども至道の生前の姿を映した映像や画像を流していた。秋芳はそれらを見ていたので、大連寺至道の顔はおぼえていた。


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