暁 〜小説投稿サイト〜
至誠一貫
第一部
序章 〜桃園の誓い〜
序 〜死、そして新たなる生〜
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ロッシェから貰った万年筆に双眼鏡、懐紙……それから石田散薬、か。
 ……しかし、ここがどこだかわからん。
 荒野の向こうに、山は見える。
 ……だが、日本で見た事のある山ではない。
 屯所にあった水墨画のよう、そう清国の風景に近いような気がする。
 だが、私がいたのは宮古湾。
 流されたのだとしても、清はあり得ぬ。
 ただ一つ言える事、それはこうして五体満足で生きているという事実。
 生き永らえた以上、箱館に戻らねばならない。
 道を尋ねようにも、人影が……ん?
 遠くから、誰かがやって来るのが見えた。
 丁度良い。
 私は人影が近づいてくるのを、ジッと見続けた。

 そして、お互いに顔がわかるぐらいの距離に。
 人影は、いずれも人相の良くない男が三人。
 頭に巻いた黄色い布はお揃いで、腰には幅の広い刀を下げている。
 ずんずんと、私のそばへと近づいてくる。
 ……この際、人相は問うまい。
 私が知りたいのは、場所と道だけなのだからな。

「おい」

 先に、向こうから話しかけてきた。
 中央の首領らしき男が、私をジロジロと見る。

「オメエ、どっから来た?」
「どこから、とは? 気がついたらこの場所にいたのでな。むしろこちらが尋ねたいぐらいだが、ここはどこだ?」

 すると、男はギロリ、と私を睨みながら、

「ふざけてんのか、てめぇ! 俺達が誰だか、わかってんだろうな?」
「いや、貴殿らとは初対面の筈だがな」

 尊攘派の連中ならば、このような物言いはせぬだろう。
 むしろ、いきなり斬りかかって来ても不思議ではない。
 ……そのぐらい、私は恨みを買っているからな。

「あ、アニキ。こいつ、なかなかいい服着てるじゃありませんか。高く売れますぜ?」
「そ、それに、剣もなかなか見事なんだな」
「そうか。おい、その服と有り金全部、あと剣を置いていけ。そうすりゃ、助けてやる」

 山賊の類か。
 どうやら、情報を聞く前に一仕事必要なようだな。
 和泉守兼定を抜き、構える。

「お、やろうってのか。てめぇみたいな優男に俺様が斬れるとでも思ってんのか、ああ?」
「そんな細身の剣じゃ、虚仮威しにもならねぇぜ?」
「い、今ならまだ許すんだな」

 なるほど、相手の実力の程もわからぬ、か。
 いかにも切れ味の悪そうな大剣を抜く三人。
 面構えは凶悪だ、人も何人も殺しているのだろう。
 ……だが、腕はさほどではないな。
 ならば、先手必勝!
 首領らしき男に、真っ向から斬りつける。

「舐めるなっ!」

 私の兼定を、脅威と見ていないのだろう。
 だが、本命はそっちではない。
 すかさず柄から右手を放し、堀川国広を抜き放つ。
 そのまま、男の腹に突き刺す。
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