Side Story
少女怪盗と仮面の神父 49
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波の音が聞こえる。
風に流され、浜に乗り上げ、砂を攫って沖へ帰って行く、涼やかな水の音。
遠くから聴くだけでも広大な波打ち際の景色が思い浮かぶ、不思議な子守歌だ。
「あぁー……飛び込みたいぃー。泳ぎたぁーいぃー」
「駄・目・よ。足裏の傷も完治してないのに、海水に入ってどうするの! 痛いだけよ? 溺れて皆さんに心配を掛けたくはないでしょう? これからが本番なんだから、だらけてないでシャキッとしなさい、シャキッと!」
「解ってますけどぉー。でも、もう……いろいろ、限界……」
ペンを右手に持ったまま、記入済みの書類が山積する机の上に上半身をパタッと倒す。斜め後ろに立つ神父姿のアーレストが、やれやれと呆れた様子で両肩を持ち上げた。
「仕方ないわねぇ。ちょっとだけ寝かせてあげましょうか? 此処で。今直ぐ。」
「いいえぇ結構です! 疲れてなんかいませんよ私! ほらほら見て見て、もーすっごく意欲満々で落ち着かないったらありゃしない! さーて、次のお役目頑張っちゃうぞ!? 善は急げだ、行って来まーすっ!!」
三回も四回も寝顔を覗かれて堪るか! ただでさえ執務室に二人きり、なんて恐ろしい状況だというのに、アーレストの前でスヨスヨ寝てましたなどと女衆に知れたら、いったいどんな目に遭わされるか。考えたくもない。
ぐぁばっ! と勢いよく立ち上がってペンを放り出し、礼拝堂へと走……りはせずに、早足で移動する。
「難儀な娘ねぇ」
背後で零れた溜め息交じりの台詞に、「お前の所為だぁッ!!」とは突っ込まない自分。短期間で随分大人になったよねぇ。日々是成長だ。うんうん。
顔を見た瞬間に振り上げた拳があっさり避けられた件はもう、ワスレマシタ。
くそうっ!
「ふっ……はーぁっ! 気持ち良いぃー」
無人の礼拝堂と正面の扉を潜り抜け、白銀のアーチへ向かってアプローチを真っ直ぐに進む。時折背後から襲って来る木の葉はやっぱり痛いが、強めに吹く風は疲れで熱った体に心地好い。
「んむ。平穏無事が一番だぁわぁあー……あぁふ」
菜園と繋がる坂道の途中で一旦立ち止まり、両の拳を天に突き上げて ぐぐぐーっ と背筋を伸ばす。
見渡す空は青く高く、雲は白く厚く。山は深い緑に彩られ、海は陽光を反射してキラキラ輝き。暗殺者達が潜伏していた時の緊迫した空気は何処へやら、此処数日のネアウィック村には子供達の笑い声と大人達の囁きが絶えず、常よりも活気に満ち溢れている。
特に今日は、朝陽が顔を出す前からとっても賑やかだ。それが嬉しくもあり、恥ずかしくもあり、寂しくもあり……
「……ぅだあっ! ヤメヤメ! 落ち込むの禁止! お役目の事だけ考えてりゃ良いのよ、私は!」
ぶんぶん頭を振って余計な思考を排除しつつ、下り方面へ歩き出す。
睫
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