Side Story
少女怪盗と仮面の神父 49
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人や一家族が一度に食べ切れる量まで、一日最大三回、生活に必要不可欠な量までと制限すれば良いだけの話なのに。少数の人間に限り大量に獲って販売可能とか、そっちのほうが余程無駄が出るじゃない! 同じ地域内でも必要とする人と必要としない人が大勢居て、要らない人のほうが割合を占めたら余りが出るのは当然でしょう? ……でも、そんな事は誰も考えないの。糧を得るには金銭が必要だって信じてるの。お金なんて、人間以外にしてみれば何の栄養にもならない、ただの塵なのにね。持ってなければ生を許されないの。……本当、嫌な世界……っ」
「ミートリッテさん」
アーレストが静かに首を振って諫める。
自分も、王族の近くでこんな発言をして赦されるとは思ってない。後で叱責を受けるだろう。
だけど、吐き出した思いは紛れもなく本心だった。
「私の本当のお母さんもね。娼婦だったんだよ」
「……?」
イオーネの目に変化が出た。アーレストが息を呑む気配。
「お父さんに身請けされるまで、数え切れない人と関係を持ってたって。周りの人達はみんな言うの。汚らわしい。惨めだ。被害者ぶりやがって。……あとは何だっけ? たくさん聞き過ぎて忘れちゃった。なんにせよ、どれもこれもお母さんと私を見下す台詞ばっかり。こんな世界でも必死に生きようとした泥塗れな人達に向けて、綺麗な人達は口を揃えて言うのよ」
目障りだ って。
石牢に沈黙が降りる。燭台の上で踊る小さな火だけが、切ない声でジジッと鳴いた。
「……哀しいよ。どうして、ただ必死に生きてるだけでそんな事言われなきゃいけないの? 寂しいよ。物語で登場人物が苦しい思いをしていれば、みんな涙を流すじゃない。哀しいって言うでしょう? なのにどうして、重苦しい現実を死に物狂いで生きている人達に向ける言葉はソレなの……!? なんで誰も、そういう環境こそがおかしいと思えないの!? 弱い人には、がむしゃらに足掻く自由すら無いの!?」
喰って掛かる勢いで声を荒げた途端、視界に映ったイオーネの両肩がびくんと跳ねた。火色を反射する銀の目が、丸い。
「……本気で、そう思ってた時期もあるの。でも、もう良いや」
鉄格子に張り付いた両手を離し。二歩分後ろへ下がって、にやりと笑う。
「泥塗れでもがき続ける私達を、嘲笑いたいなら嘲笑え。否定したいならするが良い。私達は、穢れていようが意地汚かろうが惨めだろうが、外面しか見てないそんな薄っぺらい評価には二度と挫けたりしない。覚悟しなさい、イオーネ。私はあなたを、この泥塗れな両手で抱き締めてあげる! 私達を否定する総てに、私達が得た全てを分け与えてあげるの! 自分じゃどうにもできない、苦しくて仕方ないって時に、脳内でお花畑が見頃だと莫迦にしていた相手が助けに来るのよ!? とんだ大迷惑よねぇ!?
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