第4話 残された思い出
[1/4]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
――3週間前。
獅乃咲家の敷地内である道場の中で……日向威流は、獅乃咲流空手の鍛錬に励んでいた。艶やかな黒髪を短く切り揃えた、精悍な顔立ちの青年が、白い道着に袖を通し拳を振るっている。
戦場を制する精強な魂は、精強な肉体に宿る――という獅乃咲の教えの下。彼はパイロットでありながら、こうして空手の稽古に精を出しているのだ。
「ハッ、トァッ!」
覇気の籠もった叫びと共に、拳が空を切る。その貌は戦場にいる時と変わらない、毅然とした色を湛えていた。
「……ハァアァアッ!」
やがて。彼は高く跳び上がると――目前の瓦を狙い。鋭い手刀を振り下ろした。
「獅乃咲流――『兜両断閃』ッ!」
決着を告げるその叫びと共に――50段に積み上げられた瓦の塔が、一瞬にして両断された。激しい衝撃音と共に離散していく破片が、その威力を物語っている。
「……フゥッ」
獅乃咲流に伝わる奥義。その一つを放った彼は、額の汗を拭うと踵を返す。
――既に外は夕暮れ時を迎えている。今日の鍛錬は、ここまでだ。
「威流様!」
すると。道場を去ろうとしていた威流の前に、和服姿の少女が慌ただしく駆け込んできた。
妹のように可愛がっている許嫁の登場に、威流の表情が柔らかいものに変わっていく。
「んっ? ――あぁ、お帰り葵。今日はえらく早かったんだな。友達と一緒じゃなかったのか?」
「威流様、本当なのですか!? 来週、新たな怪獣が目撃されたと言う宙域の調査隊に加わるというのは……!」
「え……もうそれ聞いたのか? ……さては雅先生だな。お喋りな人なんだから、全く」
だが、公にされていないはずの任務について言及されたことで、再び仏頂面に戻ってしまう。そんな彼に、許嫁は縋り付くように駆け寄ると、汗で手が汚れることも厭わずに道着を握り締めた。
戦争が終わりかけた矢先に、愛する男が再び死地に赴こうというのだ。しかも、自分には内緒で。そんなことを知った以上、許嫁は――葵は、居ても立っても居られなかったのである。
「ど、どうかお辞めになってください! せっかくこの地球上から怪獣が殲滅され、平和が戻ったばかりだというのに! 守備軍は一体、何をお考えでっ……!」
「……戻ったばかり、だからかな。戦勝ムードで盛り上がってるって時に水を差されるわけにもいかないし……何より、勝利宣言した後にこの件が明らかになったら、軍部のメンツに関わる」
「しかし……! だからと言って、威流様が行かなくてはならない理由にはっ!」
「上は、この件がバレる前に早々に処理したいんだろうよ。だから見つけ次第、すぐ撃破するためにオレ達を選んだんだ」
威流はそんな彼女を宥めるように、優しく
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ