第4話 残された思い出
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の恐れなど微塵も見せず、気遣うように微笑み続ける。
そんな日々が、彼女に突きつけた無力感が……今こうして、彼女の涙を誘っているのだ。
「私は……私は、好きでこの家の娘に生まれたのではありません! 私だって、本当は……戦いたかった! 大切な人と、苦楽を分かち合って生きて行きたかった! こんな、こんな大変な時に、何もできない体なんてっ……!」
「葵……」
「……私も、もう16です。そうやっていつまでも、幼子のように可愛がられるような歳ではありません! どうしても、戦地に赴かれるのであれば……私も許婚として、伴侶として……その務めを、今果たしますっ!」
止めどなく溢れる、激情の濁流。その勢いにさらわれるように、彼女は威流の手を掴むと、その掌を自分の胸に押し付けた。
「んっ……!」
「お、おい葵!」
着物の中を通し、直に触れる葵の肌。その柔らかさと、雄の本能を刺激する彼女の色香にたじろぎつつも――威流は理性を以て、彼女を止めようとする。
だが、葵の強い眼差しが「止めないで」と訴えているようだった。
「な、何を慌てることがありましょう。私は、貴方の許婚。これくらい当然……んぅっ!」
「ちょっ……」
「あぁ、はぁっ……!」
そうこうしているうちに、胸元を肌蹴た葵は、円を描くように威流の掌を誘導する。
――柔肌の先に伝わる、力強い男の掌。それを直に感じて、未だに男を知らない葵は甘い息を漏らしていた。
(甘くて、温かくて、切なくて……これが、これが……)
気づけば彼女の肢体は、鍛錬を終えたばかりの威流より汗ばんでいる。このまま、感情の赴くままに流されてしまえば……自分はどうなってしまうのだろう。
そこから先への不安と期待が、彼女の胸中を席巻した――その時。
「――何をしているのですか?」
冷や水を掛けるような声とともに。道場の空気が、一瞬で凍りつく。
「――っ!?」
我に帰った2人が、声の方向へ振り返った先では――当主である獅乃咲雅が、冷ややかな眼差しでこちらを見据えていた。
「あ、あぁ……お、母様……」
「……全く。いくら不安だからといって、それは無謀にも程がありますよ。獅乃咲の娘として、慎みが足りません」
「し、失礼、しましたっ!」
花も恥じらう年頃の乙女が、実の母に最も見られたくない瞬間を見られた。その衝撃は、武家の娘として気丈に育てられてきた葵ですらも、一瞬で赤面させてしまう。
彼女は耳まで真っ赤に染め上げながら、慌てて乱れた和服を直すと、そそくさと道場から逃げ出してしまった。威流は咄嗟に呼び止めようと手を伸ばすが――雅の視線が持つ強制力に、阻まれてしまう。
「あっ、葵……!」
「――貴方も貴方ですよ、威流。16とはいえ、葵はま
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