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赤き巨星のタイタノア
第2話 調査の代償
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「……彼はいずれ、獅乃咲(しのざき)流を継承する武人でした。武人ならば、戦場で果てるのはこの上なき誉れ。何も、悲しむことはないのですよ。あなたも、それは分かっているはずでしょう?」
「……っ……」
「さぁ、行きなさい。あなたは今、後進を育てる教官職であるはず」

 威流に同行していながら、彼を守れなかった円華を、ただの一度も責めることなく。雅はただ、労わるように。

「……死なせたくない、と願うのなら。死なせぬ術を、後世に伝えて差し上げなさい」
「……!」

 長きに渡る侵略者との戦争から、ただ1人生き延びてきた教え子を、旅立たせようとしていた。

「……失礼、します……!」

 もはや円華には、その意を汲む以外に道はない。――自らの想い人(・・・)を見殺しにした、自分には。

(威流……ごめんなさい……! 私、最後まで何も……出来なかった……!)

 立ち上がり、踵を返し。彼女は肩を震わせながらも、涙だけは見せまいと立ち去っていく。婚約者である葵の前で、自分が泣く資格など、ないのだと。

「……よく、頑張りましたね。葵」
「……」

 やがて、円華がこの一室から立ち去った後。雅は隣で目を伏せ続けていた娘に、円華と同じような――優しげな視線を送る。
 母の言葉に堪え切れず、顔を上げた葵は――整っているはずの顔をくしゃくしゃに歪め、押し殺していた悲しみを溢れさせていた。

「……お、母、様ぁっ……!」
「立派よ。あなたは、立派に耐えた。獅乃咲の家に相応しい、子女になりましたね」

 由緒正しき武家である獅乃咲。その一族に名を連ねる者として、いかなる時でも気丈でいなければならない。
 その重圧と、愛する青年を喪った悲しみに耐え忍び、「獅乃咲の娘」であり続けてきた彼女は。ここが「公の場」でなくなった瞬間、ただの少女としての自分をさらけ出していた。

「あ、あぁあ……あぁぅあんっ! 威流、様……威流様ぁああ……!」
「……」

 母の胸に飛び込み、咽び泣く葵。そんな娘を、労わるように抱きしめながら――雅は宇宙に消えた威流を探すように、天を仰いだ。

(戦争が終わり、ようやく世に平和が戻りかけたというのに……。天はまだ、試練を課すと言うのですか)

 長きに渡る宇宙怪獣との戦争は、この地球からあらゆる命を奪い去った。戦える男の過半数は戦場に散り、女子供まで戦いに出向かねばならない暗黒の時代。
 それがようやく終わりを迎え、この星が平和な未来に歩み出そうとした――矢先。人類の勝利の立役者であり、英雄である彼が、このような結末を迎えるなど。

 彼の義母であり、師である雅は。容易く、受け入れることができずにいた。
 ――もしかしたら。今も彼はどこかで、生きているのではないか……と
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