ウミホタル
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彼女はいつもと変わらない、甘い匂いをまとっていた。
「――なんてどうや?」
茜色に染まる教室、黒板の前で目を輝かせて力説している彼は私の幼馴染 海空蛍。
深海のような藍色の自然任せに伸ばした髪と男の子なのにくりっとした大きな目と標準より低い背と細い体系で一見すると女の子なのか男の子なのか分からない中性的な見た目をした、腐った縁で結ばれた幼馴染
海空 蛍と、覚えてくれたらいいわ。
蛍の事は好きでも嫌いでもどちらでもないわ。だから私はいつも彼への返事は、そうねいいんじゃない、と頬杖をついて手に持っていた本から視線をうつさないで、そっけなくあいづちをうって何処か遠くへ流してしまうの。そしていつも蛍は頬はむくっと膨れ上がらせてこう言うの。
「何言ってるんや! 文化祭のやでっ真面目にしいや」
ってね。こんな会話いつもの事過ぎて飽きてしまったわ。
高校生活二度目の文化祭、私達のクラスの出し物は舞台劇をやることになったの。私はそんなのやりたいなんて一言も言っていないはずなのだけど。
言い出しっぺはもちろん蛍。放課後残って二人で劇の内容を決めようと言い出したのも蛍。凄く面倒くさいことだけれど、家に帰ったところでなにもないから別にいいっかと言うことにしておきましょうか。私は心の広い女だからね。優しいのよ。とてもね。
クラスメイトは私と蛍だけしかいない小中高一貫の田舎の学校の文化祭。そんなもの村の人たち以外に誰が見に来るっていうのかしら。家はおはぎを大量に持った祖母の姿しか思いつかないわ。きっと去年の文化祭、もしかしたらそれ以上に大量のおはぎを作ってくる気よ、あの人お祭りごとが大好きだから。
……なんてもういない祖母との思い出話に浸っていたら、
「なーなー見てみ? こんな風にお前が甘ーい匂いをまとってやな。こうっクルクルーと回ってな」
いつの間にか舞台を黒板の前から、窓側に移動して夕日で茜色に染まった空をバックに華麗なターンを披露、その舞い姿はまるで白鳥の湖を踊るバレリーナのよう。本当なんでもそつなくこなせる天才肌なのね。
「茜色の夕日と蛍か」
ぼそりと無意識で言葉が口から零れた。――夕日は嫌い。――赤は嫌い。――血は大嫌い。
茜色に私の見える世界を染める夕日が嫌い。夕日を見ると幼い頃の苦い思い出が甦るから嫌いなの。茜色赤色赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤……世界が真っ赤に彩られて、生暖かい液体が私の体を塗り付けるの。ああ……気持ちが悪い。思い出したくないと、甦ろうとする記憶を蓋をして奥底へ封じ込めようとしているのに、あの幼き日に体験した赤の世界は私を開放してくれない――甦る十二年前まだ私がこの村に越して来たばか
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