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お弁当
第一章
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                お弁当
 仁科幸隆は不満に思っていることがあった。
 それがいつも妻が出身の時に持たせてくれる弁当にあった、昼に会社でだ。
 その弁当を開いてだ、やれやれといった顔で言うのだった。
「またか」
「あれっ、課長またかって」
「またかっていいますと」
「どうしたんですか?」
「いや、お弁当がね」
 同じ部屋、会社の総務部彼が課長として働いているそこでそれぞれ食べようとしている部下達にぼやいて言った。
「それがね」
「あっ、お野菜多いですね」
「ほうれん草に人参のおひたしに」
「キャベツもありますね」
「色々ありますね」
「それに鮭ですね」
「普通に焼いたのですね」
「うん、塩鮭じゃないよ」
 そうだとだ、彼は答えた。
「塩分を抑えているね」
「全体的にヘルシーですね」
「そうですね」
「この食事は」
「何か」
「そう、女房が作る弁当はね」
 まさにというのだ。
「こうして貧乏臭いのばかりで」
「だからですか」
「それで、ですか」
「お嫌なんですか」
「味自体は悪くないよ」
 これは仁科もわかっている、味自体は悪くないのだ。
 しかしだ、それでもというのだ。
「けれどね」
「メニューがですか」
「よくない、ですね」
「課長としては」
「高校生の息子の弁当は」
 仁科はその眼鏡に皺のある顔で言った、まだ量のある黒髪にはそろそろ白いものが混じってきていて実は腹も出てきている。
「こんなのじゃないんだ」
「っていいますと」
「どんな感じですか?」
「一体」
「うん、いつもハンバーグやら唐揚げもあってね」
 それにというのだ。
「量も多いし野菜どころか果物もあって」
「ああ、息子さんのお弁当は」
「凄い量なんですか」
「そうだよ、豪勢なものでね」
 それでというのだ。
「もう見ているとね」
「それでなんですか」
「嫌になりますか」
「ご自身のお弁当と比べて」
「そうですか」
「そうだよ、本当にね」
 ぼやいた感じの言葉になっていた。
「旦那と子供での違いかな」
「そういえばうちも」
「うちもかな」
 ここで男性社員で結婚している面々が言った。
「子供が出来た途端に」
「女房の態度が変わって」
「子供べったりで」
「俺のことなんか」
「俺の方もだよ」
「昔からそうだったけれど」
 それでもとだ、仁科も言った。
「最近特にだよ」
「奥さん息子さんべったりですか」
「お弁当についても」
「明らかに違うんですね」
「そうだよ、息子なんてね」
 自分と似ているが自分よりも背が高くてスタイルもよくて顔立ちもいい息子のことを想った。
「無愛想なものなのに」
「高校生ってそうですよね」
「皆そうですよね」

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