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Darkness spirits Online
第5話 帝王の影
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フルを構える。

(新手か……!?)

 そして――砂塵を破るように。土煙を掻き分け、1人の男が現れた。

 漆黒の礼服とステッキを持つ、白髪の老紳士。鎧騎士達と同様に、「RAO」の世界観からは逸脱した外見である。

「……!? お前は!」
「素晴らしいものを見せて頂きましたよ。やはり、いいものですねぇ。命を懸けて戦う若者達の、勇敢な戦いというものは」

 大仰に両手を広げ、皺の寄った口元を歪ませるその男は――見る者に悪寒を走らせる「嗤い」を浮かべていた。
 深淵の如く、暗く深く淀んだ彼の眼を前にして、キッド達は息を飲む。彼らは……この男の貌を、知っていた。

「やはり、全てお前の仕業だったのか……アドルフ・ギルフォード!」

 ◇

 ――アドルフ・ギルフォード。
 元海兵隊という奇妙な経歴を持つゲーム開発者であり、当時「DSO」の開発主任でもあった男だ。彼の、徹底したリアル志向に基づく美麗なグラフィックは、VR業界に衝撃を与えるほどのクオリティを誇り――この「RAO」にも、彼が残したグラフィック技術が流用されている。

 1年前の「DSO」事件以来、行方を眩ませていた彼が、今。VRのアバターとして、キッド達の前に姿を現していた。

「やはり……も何も。聡明なあなた方なら、とうに分かりきっていたことでは?」
「何のためにこんなことを……!」
「……何のため、ですか。至極、単純なことですよ。私はただ、この世界を本気で(・・・)生きる人間を見ていたかった。ゲームなどというお遊びに留まらない、その世界で本当に生き抜いている、人間の命を。その、輝きを」
「命の、輝きだぁ……?」

 演劇のような口調で、大仰に語る彼の様子を、2人は怪訝な表情で観察する。武器は持っていないように見えるが、何をする気かわからない以上、迂闊に手出しはできない。

「痛みという人間本来の感覚を否定しない、至高の臨場感。逃れられぬ激痛の恐怖――その極限的状況に晒されるがゆえに生じる、生きることへの喜び。そう、私達の肉体が眠る現実世界とは似て非なる、それでいてどこまでも近しい、いわばもう一つの異世界。そう、現実との境界を失わせる、精巧なる仮想空間。それこそがVRという文明を以て表現出来る、究極の芸術です」
「そんなことのために……大勢の人々を苦しめ、死に追いやるのか!」
「ほう? それをあなたが仰るのですか。私を利用して『DSO』を売り出していながら、問題があれば追放し、精巧なグラフィックという旨味だけを抜き出して、この『RAO』を開発したあなた方が」
「ぐっ……」

 やがてギルフォードの言い分に、キッドは激しく憤り声を上げる。だが、自身が背負う罪の重さを知る彼は、それ以上の言葉を紡ぐことが出来なかった。

「……ん
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