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王道を走れば:幻想にて
第四章、その2の2:小さく、一歩
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「・・・此処は本当に暑いな」
「そうですね・・・」

 熱篭りで馬車の中で、アリッサは額に流れる汗を払う。同じく車内に残っていたキーラも同様であり、口元を開けて息を俄かに荒げさせ、首筋を赤くさせていた。扉を開放して換気をしてるに関わらずこの息苦しさというのは、流石は無風の夏であった。だがこれは兵達に比べればまだ楽な状況にあるといっていい。この雲一つ無い真夏の暑さに関わらず、だだっ広い平原に立ち止まる馬車の列を警備する兵達は、彼女らとは比較にならぬほどの苦しみに耐えているのだ。彼らの唯一の癒しといえば、近くを流れる清流であった。お陰で水分不足には陥らない。
 とんとんと、開け放たれていた馬車の扉が叩かれた。銀の水筒とグラスを幾つか手にとって、リタが顔を出す。彼女も同様に顔に汗を垂らしている。

「お疲れ様です。お冷をお持ち致しました」
「ああ、助かるよ、リタ」
「有難う御座います。・・・本当、近くに川が流れているのが唯一の救いですね」
「そうだな、これがなくば今頃燻製になっている・・・リタ、貴女もお疲れの様子だ。此処で休んだらいい」
「有難う御座います。では、御言葉に甘えて」

 暑さに参っているのか、リタはそそくさとグラスに水を注いでいき渡していく。ひんやりとした吐息が流れてくるようで、肌に心地良さを覚える。そしてそれを唇に咥えて清流の滴を嚥下するとなれば、恍惚にも近い爽快感が生まれるのだ。

『・・・暑いよー。ひもじいよー』
「・・・ああ、美味いな。火照った身体によく染み入る」
「ふぅ、美味しい・・・。アリッサさん、ふと思ったのですが」
「何かな?」
「暑い暑いと仰せになるのならば、鎧を脱いでしまえばいいのでは?」
「き、騎士から鎧を奪うのか?不測の事態が起こったら、私はどうすればいいのだ?」
「御言葉ですが、真昼で、しかも王国の旗を掲げる馬車を襲う愚者がどこにおりましょうや。それに、調停官自らが剣を取るほど切羽詰った状況が、こんなのどかな時に起き得る筈もありません」
「ふ、ふむ・・・言われてみればそうだが・・・しかし・・・」

 北への旅路の間、ずっと鎧姿を通していたアリッサは躊躇いの気持ちを覚える。他の者達が薄着となる中、自分だけは体裁を取り繕う形で我慢をしてきた。叶うならば到達に至るまでこの姿を通していきたい。
 だが傍目から見ればそれは無駄意地を張る行為であり、見ていて暑苦しい。薄着で冷水を飲む二人の女性にとっては、見るのも耐え難い。

「仕様がありません。脱がせてさしあげます」
「私も手伝いますわ」
「こ、こらお前ら!そんな変な手付きで迫るな!」
「素直になれない貴女が悪いのですよ?いっそ楽になってしまいなさい」
「私共もお供致しますから」
「そ、そんな所触るなぁ!ひっ、キーラ
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