十七話
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もの涙をこぼすこのかに刹那は何も言えなくなってしまう。一体、どうすればいいのか。そんな想いだけが、刹那の中に渦巻いていた。
「ハハハハ! これはええやないか。仲間のために自らを差し出す! さすがお嬢様。何とも慈愛に満ちたお人や」
敵のリーダー、天ヶ崎千草の耳障りな声が辺りに響き渡る。明日菜や刹那はその声に対し怒りの表情をあらわにしているが、ネギはそれどころではなかった。早くこのかを説得せねばならない。何故か、そんな想いに突き動かされていた。
「近衛、君がその身を差し出した所で何も変わらない。いや、むしろ状況が悪くなる。だから、そんなことはやめたまえ」
「先生……明日菜とせっちゃん、それにのどか。皆を、よろしくお願いします」
「!?」
その言葉を聞き、ネギは体を硬直させた。今のこのかの眼は、顔は、声は……ネギは幾度も体験したはずだ。嫌、ネギではなく、エミヤが……
――辺りには最早死体しかない。いつもと同じように多数を救うために殺した少数だ。この頃のエミヤは既に達観していた。正義の味方として、多くを救うためには速やかに少数を切り捨てるしかないのだと。
――うぅ……
――一人死体の山の中茫然としていると、小さなうめき声が聞こえた。まさか、生きている者がいたのかと周囲を見渡すと、すぐに見つかった。自分が切り捨てたものの一人、背中を切り捨てた筈の若い女だ。
――誰、か……
――今は息があるようだが、出血の様子から見てもう長くない事が分かる。やっておいた本人が何を、と思うかもしれないが、エミヤはその女の最後を看取るべく近づいた。
――ああ、来てくれたのね。お願いが、あります
――女は弱く声をもらし、何かを差し出してきた。
――この子を、お願い。私はいいから、この子を
――女が差し出したのは、まだ幼い赤子だった。まさか、隠していたのか? とエミヤは戦慄した。エミヤはこの女を切った時を覚えている。その時、赤子がいることなど全く気付きはしなかった。この女は、己の命を賭してエミヤから赤子を隠し通し、守ったのだ。
――お願い、します
――ああ、任された
――エミヤが赤子を受け取ると、女は静かに逝った。
これだけではない。幾度も、幾度も、幾度も幾度もエミヤはこれに遭遇した。自らを犠牲に
してでも子を守る親、弟を守る兄、恋人を守る男。戦闘力など欠片もないはずなのに、エミヤは彼らに圧倒された。エミヤとて、このような方法をとっているが自分の身を犠牲にしてまで他人を救ってきた。だが、彼らと自分には何か決定的に違っているとエミヤは感じていた。思えば、この頃から既に察していたのかもしれない。自分の人を救いたいという思いが、本物では無い事に。
そし
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