第三章
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「わしはそんなものは出さぬわ」
「しかし酒ではない」
「というと一体」
「それは何でしょうか」
「何を出して頂けるのでしょうか」
「これじゃ」
秀吉は民達に応えてその手をぱんぱんと叩いた。するとだ。
場に一斉に敷き物が出て来てその上に茶器達が出て来た。そうしてだ。
そこに茶が煎れられていく。その茶達を指し示して言うのだった。
「さあ、飲むがいい」
「茶ですか」
「茶を出して下さるのですか」
「そうじゃ。たんと飲むがいい」
見れば饅頭やおはぎといった菓子もあった。それを指し示しての言葉だ。
「茶をな。よいな」
「何と。茶を振る舞って下さるとは」
「これはまた馳走ですな」
「我等の様な者達にここまで」
「太閤様は何と気前のいい」
「本当のことなぞ言わなくてもよいわ」
気前がいいという言葉への返しだった。こう笑顔で返すのが秀吉だった。
その彼が今度はこう言ったのだった。
「飲め。遠慮なぞしてはいかんぞ」
「はい、それでは」
「お言葉に甘えまして」
民達は秀吉の言葉に笑顔で応えた。こうしてだった。
彼等は茶の場にそれぞれ座り菓子を手掴みで食べ茶を片手に飲みすする。座り方も胡坐をかいたり片膝をついたりと様々だ。だが誰もがだった。
茶の作法なぞ守ってはいない。銘々無作法に飲んで食っている。だがだった。
秀吉はその彼等を見てにこにことしている。その彼にだ。
大谷が横からだ。そっとこう問うてきた。
「これでよいのですか」
「うむ、よい」
秀吉は満面の笑顔で大谷に答える。
「これでよいのじゃ」
「どの者も作法は守っておりませぬな」
「それがよいのじゃ」
「茶なのにですか」
「茶道はあるがな」
だがそれでもだというのだ。
「こうした飲み方もよいのじゃ」
「そして茶もですか」
「何も身分のある者だけが飲んでよいということはない」
「前に仰った様にですね」
「誰もが飲んでよい。それもふんだんにじゃ」
そしてだった。秀吉はこうも言った。
「泰平になれば余計にじゃ」
「泰平の世の中で誰もが茶をふんだんに飲める様になるのですか」
「そうした世でなければ駄目じゃ」
秀吉は言い切る。目を細めさせて。
「それ故に今皆をここに呼んだのじゃ」
「花を見て茶を飲む場所にですか」
「作法にこだわりよい茶器で飲むのも茶じゃ」
そしてそれと共にだった。
「そうしてこうして砕けて飲むのも茶じゃ」
「茶道とは別に」
「うむ。皆で砕けて飲むのもよい」
「そしてそれがですね」
「泰平の茶の飲み方じゃ。では」
それではだとだ。秀吉もだった。
手掴み
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