暁 〜小説投稿サイト〜
至誠一貫
第二部
第三章 〜群雄割拠〜
百十一 〜義将と覇王〜
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「くかー」
「すうすう……」

 宴も終わり、私は充てがわれた部屋へ。
 兵らにも食事のみならず、酒まで供されたとの事。
 抜かりのない華琳らしい手配りだ、兵らも驚いたであろうな。
 鈴々と雛里の部屋はまた別に用意するとも言われたが、二人の性格から否であろうと私の方から断った。

「あら、あの二人にも手を出したのかしら? 流石、英雄色を好むを地で行く歳三ね」

 ……華琳はそう言って厭らしい笑みを浮かべていたが。
 事実ではないのだが、浮名が些か立ち過ぎたやも知れぬ。
 自業自得でもある以上、今更ではあるのだがな。
 相変わらず寝相の悪い鈴々は、(しとね)からずり落ちそうになっている。
 起こさぬようそっと直してから、起き上がった。
 あまり酒は過ごしたつもりもないのだが、喉の渇きを覚えたからだ。
 水瓶を探したが、この部屋には置かれておらぬようだ。

 戸を開け、廊下に出た。

「如何なされました?」

 不寝番らしき兵に誰何(すいか)された。
 見張りの意味もあろうが、警護につけられた者と見た方がよかろう。

「喉が渇いてな。水を所望したいのだが。ああ、ついでだから(かわや)も借りたい」
「厠?」

 ふむ、通じぬか。
 ならば雪隠(せっちん)は……尚更の気がする。

「小用を足したいのだが、どうすれば良い?」
「それでしたら、今しばらくお待ちを。交代の時間になりましたら、その際に」
「どのぐらい待てば良い?」
「あと……」

 と、兵が答えようとした時。

「どうかしたか?」

 薄暗い廊下の向こうから、声がした。

「はっ。実は」
「よい、私から申す。井戸と、ついでに小用を足したいと思ってな」
「……では、私が案内します。お前は引き続きこの場を頼むぞ?」
「はい!」
「良いのか? 仮にも一手の将にこのような事をさせても」
「構いません、鍛錬に向かう途中でしたから。どうぞこちらへ」

 初対面の時、真面目な印象は受けたがどうやらそのままの人物らしい。
 私に背を向け歩き出した楽進を見て、そう思った。



 用を済ませ、井戸を借りて水を飲む。
 うむ、甘露かな。

「人心地つけた。(かたじけ)ない」
「いえ、お気になさらず」
「それにしても、このような刻限から鍛錬とは。日課にしておるのか?」
「あ、はい。私はまだまだ未熟者ですから」

 身に纏う闘気はただならぬものがあり、身体の傷は歴戦の証と見た。
 同じく華琳麾下、夏侯姉妹のような人外とも言える猛者には及ばぬのかも知れぬが……。
 最も、己の研鑽に邁進するという姿勢は好ましくもある。
 華琳は才がある者を欲し愛でるが、才に溺れ思い上がる者は近づけぬ。
 
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